LF対談
アレルギーの機序解明を求めて No.31(2000.5)
ラホイヤアレルギー免疫研究所名誉所長
石坂公成 氏
財団法人 千里ライフサイエンス振興財団
岡田善雄 理事長
IgE抗体はどのようにして見つかった?
岡田 この度は日本国際賞の受賞、おめでとうございます。
石坂 ありがとうございます。私はもう忘れられた人間だと思っておりましたら、頂くことになりまして。
岡田 とんでもない。アレルギーの基本メカニズムを明らかにされ、私も含め、免疫学の大先輩としてみんなたいへん尊敬しております。ところで、先日、新聞を見てましたら、花粉症はサルにもあるんですね。
石坂 あるんです。動物ではサルの他にイヌがあります。イヌはずいぶん昔からわかっておりまして、花粉症もありますし、喘息もあります。
岡田 この頃は、アトピーといいますか、アレルギー性の症状を持つ人が増えましたね。
石坂 増えました。ことに日本では。アメリカでは昔から多かったんです。40年前に私がアメリカに行った頃から、ブタクサの花粉症など典型的なアレルギー性疾患がたくさんありました。ところが、日本では非常に少なかったんです。私は、その頃に日本の患者さんの血清を使って自分の腕で皮膚反応をやってみたんですよ。そうしたら、血清を2倍とか5倍に薄めたら、もう反応が出なくなる。それがアメリカの患者さんでしたら何千倍に薄めても出るんですよ。全然、出方が違う。
岡田 日本では見たこともないようなものだった(笑)。
石坂 今は日本の患者さんも、アメリカの患者さんも違わないですね。
岡田 実はうちも家内が10年来の喘息でしてね。それは先生が見つけられたIgE抗体が関与しているということで、今日はそのIgEが見つかったあたりのことをお話いただけませんか。
石坂 1921年にドイツのプラウスニッツがアレルギー性皮膚反応の原因として血清中にレアギンを見つけました。しかし、レアギンという名前がだいたいおかしな名前でして、要するに反応性物質です(笑)。その頃はまだ、抗体がタンパク質であることもわからなかった時代ですから。しかし、50年代にタンパク質を分画するいろんな方法が出てきても、レアギンは何かわかりませんでした。なぜわからなかったかというと、普通の抗体とは少し性質が違っていた。普通の抗体というのは今の言葉でいうとIgGですね。それに、その頃はまだ抗体タンパクは1種類だと思っていたんです。レアギンは、それとは違う性質でしたから、抗体って呼べなかったんです。それが60年代に入りましてから、抗体活性を持つタンパクは1種類じゃないんだということがわかり、免疫グロブリンという概念が出てきました。
岡田 それを探さないといけないということになったわけですね。
石坂 それで62年にベルギーのヘレマンスがIgA分画の中にレアギンがあると報告した。私がアメリカに行きましたのは62年ですが、それから2、3年はレアギンはIgA抗体であると結論されていました。
岡田 そうでしたか。
石坂 それではなぜ私がこれは怪しいと思ったかと申しますと、彼の方法でもって患者さんの血清からIgAをとりますでしょ。確かにその中にレアギンは回収されるんですよ。ところが、私が血液型物質で免疫した正常人の血清のIgAをとって調べてみたら、全然レアギンの活性がない。これはおかしい。私のそれまでの研究では、血液型物質に対するIgA抗体だって、アレルゲンに対するIgA抗体だって同じ活性があるはずなんです。そこで、IgAに対する抗体を作って、レアギンのあるIgA分画からIgAを除いてみました。上清は水みたいなもんですよね(笑)。そうしたら上清にレアギンが全部残っている。これはちょっと信用できませんでした。残っている免疫グロブリンはμgしかないんですよ。
岡田 こりゃまた少ないですね。
石坂 ところがこの上清は、患者さんの元の血清と同じぐらいレアギン活性がある。そんなこと誰も信用しませんよね。そのときわかっていた免疫グロブリンはみんな血清1cc中、mgのオーダーですから。
一番困りましたのは、そんなに少ないタンパクだと今までのやり方では分離できないことです。その当時は精製したタンパクがmgないと、これがどんなタンパクだと言えなかった。しかし、患者さんの血清を何リットルもとるわけにはいかない。ですから、他の人たちがうまくいかなかった理由は、レアギン活性を持つタンパクがもっと多いと思っていたからです。結局、精製以外の方法を考えなくちゃ、このタンパクを同定することはできない。それで、このタンパクだけに反応するような抗体を作ったらどうかとなりました。ウサギを免疫してとれた抗血清から、今度はIgGやIgAに対する抗体を除去する。
岡田 えらい大変やったやろうけど。
石坂 その抗血清は、正常血清に加えると何の反応も出ない。IgEの濃度が低いから出ないんです。ところが、患者さんの血清に加えたときに、レアギンを吸収してその活性を失わせるものがあった。65年のことです。
岡田 しかしそれ、ちゃんと作るの、えらい粘られたでしょ。
石坂 粘りましたよ。我々の仕事のあとで他の人もレアギンに対する抗体を作ろうとしたんですが、誰もできなかった。追試ができないわけです。
岡田 抗体というのはずいぶん粘らんと、思うようなものはとれんようですね。
石坂 我々だって何匹もウサギを免疫したんですけど、何年かかっても2匹くらいしか作りませんでした。
岡田 ほんとにウサギの個体で違うんですね。
石坂 結局、追試ができないので、1年ぐらいたったら、あれは嘘だろうということになりました。そうしましたら、67年にスウェーデンで見つかった非定型的の骨髄腫タンパクの性質が我々が報告したIgEの性質と同じだということで調べてみたら、我々のレアギンに対する抗体がそのタンパクと反応したわけです。第二例目がアメリカでも見つかって、ようやくIgEに対する抗体をみんなが作りだして追試ができるようになった。それで我々の仕事は本当だということになったんです。そんなことで、IgEでプラウスニッツの皮膚反応が出るということはみんな認めたんですが、病気となりますと。
岡田 そうか、それは難しいですね。
石坂 病気は他の原因だろうということでね。そう言われたものですから、サルの肺組織を使ったりして調べると、確かにIgEによってアレルギー症状を起こすヒスタミンやロイコトリエンが出ることがわかりました。そのへんは70年頃になってわかったことです。
病気となると一筋縄ではいかない
岡田 ところで、IgEは悪いことばかりしているわけですか。
石坂 人間ではわかっておりません。動物実験では、寄生虫に対してそれ自体で役立っている可能性もありますし、もう一つはIgGを局所へ動員する。そういう機能はあるみたいですね。自分が中和する力は弱いのですけれど、血管透過性を上げて、他の抗体を集めてくるんですね。
岡田 この頃、よく言いますでしょ。日本人は昔、寄生虫がいたから花粉症にかからなかったと。
石坂 それは私はあまり賛成しないんですよ。寄生虫感染ではIgEがよくつくられます。寄生虫の患者さんのほうがアレルギーの患者さんよりはるかにIgEが高いんです。私はむしろ細菌感染が問題だと思います。今はそれが非常に減っています。そうすると、免疫応答を助けるヘルパーT細胞が感染防御に必要なTh1タイプでなく、IgE産生に向かわせるTh2タイプになってみんなIgEをつくるようになる。
岡田 どっちにシフトするかというのがキーになるわけですか。
石坂 面白い統計があるんですよ。15年ほど前に日本で調べられたスギ花粉症の陽性率なんですが、それを年齢別にするとある年を境に極端な段ができる。
岡田 戦前戦後ぐらいですか。
石坂 そうです。1945年以前に生まれた人と以後に生まれた人ではとんでもなく違うんですよ。戦前に生まれた人は……。
岡田 いろんな細菌にさらされていましたかな(笑)。
石坂 ですからアレルギーも起こりにくいと思うんです。それは非常に面白い結果だと思いますね。
岡田 結局、サルにしても日本は里山のサルですから、人間社会の衛生状態と同じみたいですね。実験のために南方からカニクイザルを連れてくると、ほとんどハシカの抗体を持っているけど、日本のサルは何にもない。
石坂 犬だって一緒に住んでますからね。アメリカの犬はブタクサの花粉症によくかかりますよ。
岡田 スギの花粉も山を手入れせんから、余計に増えているようですけど。
石坂 増えていることは増えています。ですけど、それが主な原因じゃないと思います。戦前と戦後の差は花粉の量じゃない(笑)。
岡田 そっちのほうがはっきりしている。実は財団でね、病気の話の公開講座をずっと続けているんですが、アトピー性皮膚炎のお話をしていただいた先生がおっしゃるには、とにかく海の水で泳がせろと(笑)。とにかく皮膚をきれいにしろと、その一つの方便として海水で、水はあかんと言うんですわ、海水のプールで泳げと。結局、あとで拭くわけですからね、それだけで60%は治るんじゃないかという話をされました。聞くところによると、外国でも海水で泳がせるというのはあるようですね。
石坂 皮膚をきれいにすると同時に、そういう経験をさせるのは鍛練するわけでしょ。ヨーロッパではずいぶん盛んなんですけど、アレルギーの子供を施設に集めまして、一定期間親から離して鍛練するんですよ。やはりそういう心理的な要因も大きいですね。免疫だけじゃないんですよ(笑)。
岡田 身体全体をうまい方向にもっていかないといかんわけですね。
石坂 我々も研究を始めたときはさんざん言われました。アレルギーには免疫は関係ないんだよ、だいたいブタクサの絵を見せれば呼吸困難が起こるんだからと。そういう子もいるんですね。ですから、その当時はアレルギー性疾患というのは、心因性の病気とか、特異体質による病気とか言われてました。
岡田 確かに心理的にバランスの悪い方というのも多いようですね。
石坂 それは事実としてありますね。
岡田 そこまでいくと複雑ですね。
石坂 私どもにはとても手が出ない。
岡田 いや先生は基本をちゃんとつくられたんやから。あとは他の連中がその土俵の上でやればいいわけで。
石坂 私はアレルギーをやっている人にときどき言うんですけど、我々がやってきたことは正常な細胞を使ってアレルギー性の反応がどうして出るかを調べたのであって、病気を調べたんじゃないんですよと。病気はまだこれからなんです。
石坂公成 氏
ラホイヤアレルギー免疫研究所名誉所長
1925年、東京都生まれ。48年東京大学医学部卒業。54年医学博士。国立予防衛生研究所血清部免疫血清室長。62年コロラド大学医学部助教授。63年小児喘息研究所免疫部長。70年ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授、81年医学部免疫学部長。89年ラホイヤアレルギー免疫研究所長兼カリフォルニア大学教授。96年より名誉所長。専門分野は免疫学、アレルギー学。受賞は日本学士院賞・恩賜賞、文化勲章、日本国際賞ほか。日本学士院会員。
〝石垣作り〟を大切にする必要がある
岡田 1960年代の終わりに僕たちは日本細胞生物学会をつくったんですが、その頃の細胞培養をやっとる連中というのは動物やヒトから分離した細胞を培養して、基本的な問題、たとえば細胞を培養した液の中に細胞増殖を助ける因子があるとか核分裂のパターンとかをやっとったわけですね。そうしたら、免疫の分野が免疫系の特徴を持った細胞を培養しはじめ、日の醒めるような成果を次から次におこしてくる。細胞生物学のお株を免疫の人たちにとられたような気分になって頭を抱えた時期がありました(笑)。
石坂 ある意味でリンパ球系の細胞というのは使いやすかったんですね。
岡田 試験管の中で一生懸命培養をやっとったら、なんかお城を乗っ取られた感じでね。一時期だいぶシュンとしました、実は。ただただ培養してというのはあんまり迫力がないんですな。
石坂 ですけど、私はそういうことで一つ感じることがあるんですけど、非常に苦労してね、あるところまでもっていってシステムをつくり、それが元になって、たとえばあるサイトカインが増殖因子であることがわかる。そうしたときに、ヨーロッパやアメリカの人たちは前のことも大事にしてくれます。ところが、日本の論文なんか見ると最初からサイトカインありきですよね。
岡田 昔のことはすぐ忘れてしまう(笑)。
石坂 実用的な意味はあるんでしょうけど、根本的にね、そういう石垣を作るというようなことは評価しないんじゃないかという気がします。
岡田 言われたら、そのとおりなんでしょうね。研究室の中でも昔の歴史がどのように教えられているか。だけど、僕はなんか歴史のないところばかりやってしまいましたから。
石坂 歴史のあるところは面白くありませんからね(笑)。しかし、基礎になっていることはなるべく無視するという傾向はありますよね。それはやはり問題ですよ。
岡田 そうですね。うちの財団も10年たちました。次の10年、財団の存在意義をどのようにもっていったらいいか、気になっていましてね。よい考えがあれば教えてください。今日はお忙しいところありがとうございました。
EYES
免疫グロブリンEの産生が原因!
アレルギー反応の分子レベルでのメカニズム解明が進む
花粉症、気管支喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患は、本来は細菌やウイルスなどから体を守る免疫反応が、花粉やダニなど無害なものに対しても過剰に働くために起こります。現在、10人に1人の日本人がスギ花粉症だとも言われています。アレルギー性疾患の増加は、遺伝や環境の変化が重なって根本的な解決は容易ではありませんが、こうしたアレルギー反応の分子レベルでのメカニズムは次第に明らかになってきました。
今回、LF対談に登場していただいた石坂公成氏は、1966年にアレルギー反応の原因として免疫グロブリンE(IgE)という抗体を発見され、その後の研究発展に大きく貢献されました。細菌やウイルスなどの抗原が体内に入ると、全身をめぐる免疫細胞の一種であるリンパ球のB細胞によって抗体がつくられます。抗体にはタンパクの構造の違いによって、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの五種類があり、その役割もわかってきています。
通常、血清中にはIgGが一番多く、IgEはほんのわずかしかありません。しかし、IgEは気道や消化管の粘膜や皮膚に多い肥満細胞や、血液中の好塩基球(白血球の一種)と結合する性質を持ち、それが抗原に反応するとさまざまな化学伝達物質を出して、アレルギー症状を起こすのです。たとえば、鼻の粘膜の肥満細胞に結合したIgEが抗原に反応すると、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、血管から水分が漏れだして粘膜がむくんで鼻づまりを起こしたり、神経が刺激されてくしゃみをしたり、鼻汁が分泌されたりします。
アレルギー性疾患では、血清中に、特定のアレルゲンに対するIgE抗体があります(正常の人の多くはIgE抗体を持っていません)。また、B細胞が抗体を作るにはやはり免疫細胞の一種であるヘルパーT細胞の助けが必要ですが、インターロイキン4というサイトカイン(生理活性物質)を出してIgE抗体産生を促進するヘルパーT細胞の存在もわかってきました。同じ抗原に対して、IgE抗体をつくる人とつくらない人がいます。それは、特定の抗原に対してアレルギー反応を起こしうるIgE抗体量を作るB細胞やT細胞を持っているかどうかによると考えられます。
石坂氏はIgE抗体が肥満細胞や好塩基球と結合する仕組みも明らかにされました。また、血清中ごく微量のIgE抗体のタンパクを同定するために用いた方法は、その後も多くの研究者に利用されています。花粉症の季節になると憂うつになる人が大勢います。アトピー性皮膚炎で悩まれている人も多いでしょう。今後のアレルギー研究の進展が待たれます。