LF対談
半導体の研究開発から太陽光発電へ No.38(2003.1)
立命館大学総合情報センター長
濱川 圭弘 氏
財団法人 千里ライフサイエンス振興財団
岡田善雄 理事長
低コスト化する太陽光発電
岡田 太陽光発電について濱川先生は日本の第一人者でいらっしゃいますが、ここのところ日本における電力の使い方が変わってきているそうですね。どうも家庭で消費される電力が50%近いと聞きました。それなら屋根に太陽電池をつけて太陽エネルギーを電気に変えられれば、そのほうが環境的にも素晴らしいのではないか。しかし一方では、太陽光発電はコストパフォーマンスが悪いといわれる。今日は電力需給において太陽光発電が将来的にどのように進んでいくか、お話しいただければと思っています。
濱川 たしかにこの10年、先進国では民生用の電力需要がどんどん増えてきています。未来学者のシミュレーションによりますと、電力供給資源としては太陽光など再生可能(リニューアブル)エネルギーと原子力を合わせたものが、石油、天然ガスなどの化石エネルギーと半々になるのが2040年と推定されています。
岡田 原子力も環境との問題が非常に大きく、原料のウランそのものもそれほどたくさんあるわけじゃないですね。
濱川 ウランの可採年数もあと70年くらいですね。
岡田 それも先が見えている。
濱川 石油、天然ガスも可採年数はあと40年と60年ほどです。この可採年数とは残存埋蔵量の目安でして、現在のコスト範囲で掘り出せる埋蔵量を年間採掘量で割ったものです。これでいうと、石炭以外の一次エネルギー資源は今世紀中に全部なくなってしまうわけです。
岡田 しかし、太陽電池に使われる原料として主流のシリコンはいっぱいある。
濱川 固体で存在する資源でいちばん多いのはシリコンなんです。そこらへんの山から掘り出した石コロも主成分は酸化シリコンですからね。
岡田 そういう意味では無限に近いと考えてよいわけですか。
濱川 ただ、純度を上げるのにコストがかかる。そして現在、高純度のシリコンの水晶が採れる場所が、これまた限られている。ノルウェー、北朝鮮、ベネズエラなどですね。そこから採ってきて純化しないと高くついてしょうがない。日本では主にノルウェーから輸入しています。コストパフォーマンスという点では、純化された金属シリコンを低コストで作る新技術が開発されないと革命的には安くはならない。
岡田 しかし、工夫次第では…。
濱川 仮定の話ですが、将来、北朝鮮との国交回復がうまく進めば、そして、北朝鮮の水晶が超高純度ならば、これをアムール河の水力(発電)で、ある程度精製して新潟あたりまでもってくる。そうすると値段も安くなるでしょうし、環日本海プロジェクトとして新しい産業が生まれ、地域の活性化にもなりそうですね。
岡田 以前、関西電力で話をする機会があったときに太陽電池の研究を見せてもらったんですが、そのときは「ご家庭で20年使ってもらうとペイできる」ということでした。
濱川 今はもっと早くなりました。太陽電池の低コスト化は、量産化によっても進みます。たとえば、同じく半導体を材料とするIC(集積回路)もそうです。私は、ほんとは右手はそっちをやっていまして、太陽電池は左手なんですね(笑)。左手のほうばかりが流行ってるように見えるみたいですけれど…。70年代のICというのは、記憶容量がわずか256ビットぐらいで1万円以上した。80年代には64キロビットと記憶容量が大幅に増えて同じくらいの値段。つまりたくさん作れば安くなり、安くなればより広い応用分野で使われ、さらに量産化できるという“ぐるぐる廻りの効果”(スケールメリット)によって90年には4メガビットで数百円になりました。太陽電池も半導体製品ですので、今後、量産化が進みますと投資の回収年数はもっと早くなります。
岡田 僕が聞いたのは、ずいぶん前でしたからね。
濱川 一方、技術の進歩で太陽電池の寿命も延びていまして、建築メーカーのある人は「屋根材として太陽電池を使えば(屋根一体型)、家より長くもちますよ」と冗談でいわれます。まあ、アメリカのエネルギー省が設定しているのは30年。日本のニューサンシャイン計画では20年は保証しています。しかし、一般に半導体製品は表面管理(パシベーション)に敏感でこれが不完全だったり、太陽電池のように屋外で雨曝しになりますとモジュールのガラス面に水あかがたまったりしますからね。
岡田 性能は落ちるわけですね。
濱川 そのとおりです。また最近、新型の太陽電池も出てきてましてね。いわば太陽エネルギーを一口で食べるんじゃなく、二口で食べるというものです。太陽電池というのは使われる半導体の種類によって電気に変えられる太陽光スペクトルの波長帯が決まっている。そこで、電気に変えられる波長帯の異なる2種類の太陽電池を二階建に積んだタンデム(スタック)型太陽電池が製造されるようになりました。2頭立ての馬車のことをタンデム馬車といいますが、そのタンデムです。実はこれは日本で誕生した技術なんです。※1979年に特許を取りまして、99年で特許が切れましたので、それ以降全世界でワーッと作り出されました。
※Hamakawa et al.,United State Patent 4,271,328
(Jun.2,1981,Foreign Application Priority Data-Mar.20,1979[JP]Japan 54/32993)
半導体でクリーンな環境づくり
岡田 そもそも濱川先生が太陽光発電の研究に進まれたきっかけのようなものをちょっとお話しいただけませんか。
濱川 私はもともと半導体の研究者なんですが、この材料でまず興味を引いたのは、光を当てると電気を運ぶキャリア(マイナスの電荷をもった電子とプラスの電荷をもった正孔)が増えることです。そんなことができる材料は半導体だけです。この光が当たると電気伝導度が増えるという原理が、太陽電池や光センサーに使われています。逆に電圧を加えると光を出し、発光ダイオードとかレーザーに応用されています。半導体の種類によってユニークに波長の感度や発光色が決まる。私は1965年から2年間、アメリカのイリノイ大学でJ.バーディン教授(トランジスタの発明とBCS理論で2つのノーベル賞を受賞)の研究室に客員助教授として滞在したとき、私は実験家なので半導体の特性(電子帯構造)を調べる“変調分光法”という新しい手法を開発しました。それで大阪大学に帰ってからも、当時、相次いで誕生していたいろんな半導体の構造を調べ上げたんです。しかし、同じ手法で簡単にできるものだから、測定システムが確立した段階では、物理の研究としてはあまり面白くなかった。
岡田 簡単にちゃんとできるというのがいちばんすごいんですけどね。
濱川 そこで次の仕事として考えたのが、半導体の特性のほうを、ムラサキ色の光を出すとか自分の思ったとおりにデザインできないか、つまり、「設計可能な半導体(Synthetic Material)の創製」ですね。それでやりだしたのが、アモルファス(非結晶)半導体です。
岡田 そうですか。
濱川 前置きが長くなりましたが、1972年に先ほどの変調分光法の第1回国際会議がアリゾナ大学で開かれまして、そのときに野外での夕食会に招かれ、真夏の夕空にキラッと光って飛ぶ人工衛星を見て大感激!たまたま同じテーブルに同席された天文学者のA.B.マイネル先生に衛星観測について解説していただきました。マイネル星雲を発見した有名な方です。その話のなかで、先生が「ここツーソン(Tucson)では以前、肉眼で6等星まで見えたんだよ」といわれる。私が「大阪なんて3等星も見えないですよ」なんてことをいうと、「濱川君、あなた半導体で大気をもっとクリーンにする方法は考えられないか。太陽電池、あれはクリーンエネルギー技術じゃないか」と。会議のあと、さっそくマイネル先生が世界の日照量などのデータや解説論文を用意してくださったので、帰りの飛行機の中から勉強をはじめて、「太陽エネルギー変換と半導体の役割」という論文を発表しました。それが、通産省におられた堺屋太一さんの目にとまった。1973年1月にニクソン大統領のエネルギー教書が発表され、全世界で石油危機が迫っている。クリーンエネルギーの新しいプロジェクトを作りたいので少し手伝ってくれないかと。それがサンシャイン計画でした。そして、これが太陽電池の研究の事はじめとなりました。
岡田 先ほどのアモルファス半導体、それにナノクリスタルというのもありますね。ちょっと説明していただけませんか。
濱川 シリコン半導体はハイテクの花形材料とされていますが、いわばその第一世代が結晶シリコンで、第二世代がアモルファスシリコン。これは、1975年から研究を始めたんですが、結晶シリコンと比べて可視部の光吸収係数が一けた大きい。つまり、非常に薄くても太陽エネルギーを吸い取ってくれる。だから、薄い太陽電池が作れる。省資源、低コストにもなる。しかし、非結晶なので電気抵抗が高く、エネルギー変換効率がよくない。光学的にはいいんですが、電気的には悪い。その点、第三世代のナノクリスタルシリコンは、光吸収係数も大きく、電気的にはむしろ結晶に近い。つまり、結晶とアモルファスのいいとこどりをした材料と考えられます。
岡田 それは意識して作られたんですか。
濱川 85年頃に発表したんですが、偶然に見つかったものです。この次世代の半導体が実用化されるようになれば、太陽電池はもうひとつ大きな節目を迎える。世の中に出回るのがついそこまで来ています。さらに建材一体型とか、太陽光発電システムに関わる周辺技術もどんどん新しくなっています。
岡田 お話を聞いていると、たしかにこれから先は変わってきそうですね。
濱川 少しずつですが、これまでの夢が現実になりつつあります。まだまだ課題も多いんですが、現在日本の太陽電池の生産量は見事に世界一でございます。98年にアメリカを抜きまして、全世界の約4割が日本で製造されています。将来、大阪の街の屋上に太陽電池が敷きつめられ、クリーンエネルギーである太陽エネルギーで電気が賄われる。車も水素や燃料電池で走る。そうなれば、それこそ仁徳天皇の頃の“なにわ”の熱環境に戻る?といえそうですね(笑)。
岡田 それは素晴らしいですね。
濱川 圭弘 氏
立命館大学総合情報センター長
1932年、京都市生まれ。58年大阪大学大学院工学研究科博士課程中途退学(任官のため)。文部教官助手(大阪大学工学部電気工学教室)、同講師、助教授を経て、76~96年大阪大学基礎工学部電気工学科教授。92~96年大阪大学極限物質研究センターセンター長。96年より立命館大学理工学部光工学科教授。また、96年より大阪大学名誉教授。97~2000年学校法人立命館副総長、立命館大学副学長。2000年より立命館大学総合情報センター長。79~96年通産省産業技術審議会新エネルギー技術開発部会太陽エネルギー分科会長、88~96年科学技術会議専門委員も務める。研究テーマは半導体電子工学、特に半導体界面物性とそのオプトエレクトロニクス機能素子への応用(半導体へテロ接合の界面物性、変調分光法、アモルファス半導体、太陽光発電を含む)。85年東レ科学技術賞、94年科学技術庁長官賞(アモルファス半導体とその高効率太陽電池の開発)、IEEE William Cherry Award(太陽光発電技術開発と普及に対する貢献)、95年紫綬褒章等を受賞。
生モノの電気をどう貯める?
岡田 太陽光発電との関係で、電気を貯めておくほうのシステムですね、これはどうすればよいのかとも思うんですが…。
濱川 おっしゃるとおり、いちばんの泣きどころなのですね。たとえば家庭で昼間発電したもののうち余った電力は電力会社に売電されています。ただ、社会全体からすると今のところは電気を貯めておくほど太陽光発電は量的に普及していません。せいぜい2020年頃まではピークセービングと申しまして、電力需要のピークである昼間に太陽電池が働いて助ける。それがまず第一です。そして2010年以降には燃料電池など水素エネルギーを使うインフラが整うでしょうから、太陽電池で起こした電気によって水を酸素と水素に電気分解し、タンクにつめこんで水素自動車や燃料電池で使う。そのほか、現状でいちばん効率がいい貯電技術は揚水発電です。昼間、太陽光発電の余った電力で海の水を揚げて、夜、これを落として発電する。実際、この技術は沖縄電力で実験が始まっています。
岡田 僕は電気というのは生モノだと思っていたときがありましてね。大変だろうなと思っていたら、生モノの冷蔵保管みたいな工夫もいろいろある…。
濱川 おっしゃるとおり、保存の効かない生モノの冷蔵保管ですね。
岡田 素人だと、いちばん最後に問題になるのは、昼間、太陽光発電で得られた生モノの電気をどうやって貯めておくか。超伝導でもできんことにはダメなんじゃないかと思っていました。そんなことはないんですね。
濱川 おっしゃる超伝導ストレージリングも将来の有望技術ですよ。しかし、さしあたっては太陽光発電の普及が大切です。ニューサンシャイン計画では、2010年で設備容量にして500万キロワットの太陽光発電の普及をめざしています。
岡田 大きいですね。
濱川 500万キロワットというのは、原子力発電所5基分です。2010年までかかって、それぐらいかという人もいます。しかし、その調子で普及が進みますと、2030年頃には新幹線から街の家を見たら、太陽電池を取り付けた屋根瓦が目立つようにもなるでしょう。500万キロワットというマイルストーンが「新エネルギー導入大綱」に基づいて設定されたのは1994年。まだ誕生したばかりの新技術なんです。しかし、もはや化石燃料の消費は環境汚染につながり、21世紀文明の維持と発展には、無尽蔵なクリーンエネルギー発電がどうしても必要です。
岡田 そうでしょうね。
濱川 太陽光発電の追い風になっているのは、一つは化石燃料の枯渇、二番目が環境問題、第三番目がIT化による電力需要の増加と分散型発電所のニーズです。また近い将来、電力の自由化とともに、太陽光発電株式会社などという第三セクターができて、高速道路や新幹線の敷地にワーッと太陽電池を並べる。そして、各電力会社に電気を配る。戦前は、今の関電も関西配電といっていて、発電と送電と配電は別でした。このあたり電力会社も変わっていくと思いますね。
岡田 新スタイルの発電会社になるわけですか。システムも含めて、世の中を変えそうですね。
濱川 これまで世界一のエネルギー輸入国だった日本が、21世紀の中頃には、クリーンエネルギー技術の輸出国になる。無資源経済大国が技術立国としての将来に命運をかける…それは私の夢の一つでもあります。
岡田 そのためには、いろいろ難しい問題はあるけれど北朝鮮とも仲良くして先生のいわれた環日本海プロジェクトができると素晴らしいですね。たいへん勉強になりました。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
EYES
生命力の象徴、太陽エネルギーを有効利用
クリーンエネルギー技術として太陽光発電の実用化が進む
石油、天然ガスなどの化石エネルギーに代わり、自然エネルギーなどを利用した環境負荷の少ないクリーンエネルギー技術の開発、実用化が急ピッチで進められています。その一つが、太陽エネルギーを太陽電池によって直接電気に変換する太陽光発電です。発電効率を高めるための新素材やデバイス構成をめぐる技術開発、低コスト化をめざした量産化技術が進み、今や日本は世界一の太陽電池生産国となっています。
日本における地上用太陽光発電の研究開発は、第一次石油ショックの翌年にあたる1974年に通産省によって発足された「サンシャイン計画」以来、国家プロジェクトとして推進されてきました(93年からは改編されて「ニューサンシャイン計画」となる)。発足当初は、太陽エネルギーの利用としては太陽熱発電が中心でしたが、次いで太陽光発電に力点が移り、そこで太陽電池の高効率化・低コスト化に貢献されたのが、今回、LF対談にご登場いただいた濱川圭弘氏(立命館大学総合情報センター長、大阪大学名誉教授)です。
濱川氏は、現在のIT技術を支える半導体の基礎物性とそのデバイス応用において多数の先駆的研究をされました。なかでも太陽光発電分野の新素材であるアモルファスシリコンやアモルファスシリコンカーバイトの開発とこれらを用いたヘテロ接合太陽電池、また現在全世界で開発が進められているスタック型太陽電池の発明者としても知られます。こうしたアモルファスシリコンの研究は、TFT(薄膜トランジスタ)液晶ディスプレイ(LCD)の開発にも生かされています。
太陽光発電の特質について濱川氏は、太陽エネルギーが“無尽蔵”で、しかも“ただ”であるほかに、以下の点を挙げられています。
①静かでクリーンなエネルギーの発生
火力発電、原子力発電にあるタービンや発電機のような可動部分がないため、騒音や爆発の危険もなく、地球温暖化の原因となるCO(2 二酸化炭素)など公害ガスの発生も全くない。
②維持が簡便で、自動化、無人化が容易
可動部分がないということは、機械的に磨耗することもない。人工衛星や無人灯台などの電源として利用されているように、運転維持が簡便で、無人化や自動化が容易に行える。
③規模によらず一定効率で発電できる
太陽電池の発電効率は、そのシステムの規模の大小にかかわらず、ほぼ一定。
④拡散光によっても発電する
ソーラー電卓が蛍光灯下でも作動するように、太陽電池は直射日光でも、曇りや雨の日、つまり拡散光でも発電する。
⑤放棄していたエネルギーの有効利用
太陽光発電は火力発電などと比べ、発電効率がよくないといわれるが、高い燃料を燃やして公害ガスを排出するのと、本来、放棄していた太陽エネルギーを15%電気エネルギーとして拾い上げて有効利用している点に大きな違いがある。
しかし、その一方で太陽光発電は天候で出力が左右されるなど不安定であったり、貯蔵ができないなどの問題もあり、水素を燃料とする燃料電池など、今後は他のクリーンエネルギー技術との連携も不可欠でしょう。昔から、太陽は生命力の象徴として崇められ、地球上の生態活動は“太陽の恵み”によって循環が保たれてきました。化石燃料の枯渇や環境問題、そしてIT化の推進によってますます電力需要が増える現代、新しい形でこの恩恵を利用する技術の発展が期待されます。