LF対談
自然免疫を司る不思議な受容体TLR No.41(2004.1)
大阪大学微生物病研究所教授
審良 静男 氏
財団法人 千里ライフサイエンス振興財団
岡田善雄 理事長
免疫に関わる未知の受容体発見
岡田 武田医学賞の受賞、おめでとうございます。山村雄一先生、岸本忠三先生と続いてきた阪大のグループは、日本でいちばん大きな免疫学のグループだと思うんですが、武田医学賞の受賞も山村、岸本、そして審良先生ということで、本当に末広がりに大きくなったなと感じております。去年は財団のシンポジウムのコーディネートもしていただき、さらに今年のシンポジウムでも先生の話を聞かせていただいて、僕なんか素人なんだけど、ようやく生体防御のネットワークの全体像というものがイメージできるようになったという感じがしました。それで、自然免疫で病原体を認識するというToll-like受容体なんですが、あれを手がけられたのはどんないきさつからですか。
審良 これはもう偶然といいますか。Tollというもの自体が見つかったのは古いんです。もう20年前くらい。背中とお腹がないショウジョウバエのミュータント(変異体)の研究から、発生に関わる重要な分子として見つかりました。その後、1996年にフランスのグループが成体のハエでTollをなくしてみると真菌(カビ)感染にものすごく弱く、生体防御にも関わることが分かった。だけど、そのときはそんな論文のことはまだ知りませんでした。96年に僕が兵庫医大に行ったとき、それまでは岸本先生のところで免疫のサイトカイン(生理活性物質)の研究をしていたんですが、独立するということで新しいテーマに取り組もうと思いました。サイトカインの1つであるインターロイキン(IL)6で骨髄系の細胞を刺激すると免疫細胞のマクロファージに分化する。この分化というものをやろうと思ったんです。マクロファージなどへの分化に関わるMyDといわれる遺伝子のシリーズがあるんですが、それを片っぱしからノックアウト(遺伝子欠損)してみて、マクロファージができないマウスが作れたら、それは分化に重要な役割を果たす遺伝子なんじゃないかと。
岡田 それが変わっていったわけですね。
審良 はい。そのうち、アメリカのグループからMyD-88というのはIL-1の受容体に関わる遺伝子だと発表されました。それをノックアウトしてみたら、本当にIL-1に反応しない。たまたま兵庫医大ではIL-18を扱っていて、それにも反応しなかった。そのとき同時に、僕たちはそのマウスが細菌成分のLPS(リポ多糖体)にもまったく反応しないことに気づいていたんです。LPSをいくら与えてもショック死するようなことはない。
岡田 免疫活性がなかったわけですか。
審良 理由はわからなかった。それで、IL-1とIL-18の受容体のダブルノックアウトマウスを作ってみたら、それはLPSに反応する。ということは、それ以外の何らかの受容体がLPSの反応に関わっているんじゃないか。ちょうどそのとき、97年にアメリカのグループによってToll-like受容体(TLR)というのが哺乳類にもあると発表された。IL-1の受容体と相同性があるものでした。これがLPSの受容体じゃないか、そう考えたんです。その後の論文でTLRは1つではなく5つあると発表され、僕たちもあと7つを見つけました。マウスでトータル12種類。それを全部ノックアウトしていけば、その中にたぶんLPSの受容体もあるだろうと。論文ではぎりぎり負けたんです。98年12月の「サイエンス」でLPSの受容体はTLR-4であると発表された。僕たちも「ネイチャー」に出そうとしていたところだったんですが、先を越されてしまった。だけど、それはノックアウトマウスじゃなくて、もともと存在したLPSに対して低応答性のマウスを使ったものでした。
岡田 すると、そのあとは他のTLRが何と対応するかということですね。
審良 それに関して僕たちは有利だったんです。すべてのTLRのノックアウトマウスをもっていたんで。それによかったのは、MyD-88を使ってすべてのTLRがシグナルを伝えていることもわかってきまして。このMyD-88ノックアウトマウスを使えば篩い分けができると。それで、データベース上にある免疫活性に関わるとされる物質を片っぱしからチェックしていったんです。
岡田 それは大変でしたね(笑)。
審良 激しい競争になったんですけれど、すべてのノックアウトマウスをもっていたんで、どのTLRがどれに反応するかしないかいっぺんに比べられて、それでいちばん先を行けたという…。
岡田 僕は培養細胞を使ってチェックしたのかと思っていたんですが、すべてノックアウトマウスからですか。
審良 ノックアウトマウスです。その腹腔からマクロファージをとってきて反応させました。
岡田 ちょっと想像するだけで大変な作業だと思うんだけれど。
審良 作業自体よりも、何と対応しているか、それを同定するのが本当に大変でしたね。
病原体の構成成分に反応する
岡田 ところで、Tollという名前、これは日本語に訳したらどういう意味ですか。
審良 Tollというのはドイツ語なんです。もともとドイツの人が見つけたショウジョウバエのミュータントから来ていますから。学生が背中とお腹がないミュータントがとれたと先生に見せにいったら、先生が「Toll( トル)!」と叫んだという。感嘆詞なんです。英語なら「Great!」ですか。英語でTollというと犠牲とか。
岡田 僕も料金所という意味なのかと思っていました(笑)。聞いてよかった。それにしても、TLRというのは生体防御にとって大切なものなんでしょうね。
審良 これまで身体の中に細菌やウイルスが入ってくると、マクロファージなどの自然免疫の細胞によって貪食されて、サイトカインが出て免疫反応が起こることはわかっていた。だけど、どうして病原体だとサイトカインが出たりするのか、その最初のトリガー(引き金)がわからなかった。それが見つかったというのがTLRの一番の重要性といいますか。身体の中にはもともと病原体を認識する受容体が存在していた。それが一番の驚きだったと思います。
岡田 獲得免疫のほうの、いわゆる遺伝子組み換えでいろんな病原体の抗原に対応する受容体と違って、初めから入ってくるものを予想しているみたいなところがあるわけですね。
審良 それは進化の過程でどんどん淘汰されていった結果でしょうね。それぞれの受容体ごとにきれいに病原体の構成成分、DNAとか膜の表面の物質とか反応するものが違っています。結局、TLRには9種類あって、それぞれが認識する分子が同定されました。そして、その各TLRの組み合わせで病原体全般を認識しているんです。たとえば、TLRの3、7、9の組み合わせはウイルスです。1、2、4、5、6、9の組み合わせは細菌です。そして、ウイルスが入ったときにはその増殖を抑えるインターフェロンを出すんです。他のサイトカインよりも多量に出すようにしてくれる。そういう受容体をもっていたということ自体が不思議なんです。獲得免疫のほうは、もっとファインなチューニングで個々の病原体を認識して記憶するわけです。
岡田 本当に不思議なものですね。
審良 それに1つのTLRがまったく構造の違うものに反応するのも不思議です。特にTLR-4の場合、LPSの他にもいろんな物質に反応する。特異性がありながら、そういう柔軟性もある。そのメカニズムがわからない。
岡田 そんなのどうやって解析するの。
審良 やっぱり立体構造をやろうとしているグループが多いですね。
岡田 生き物の複雑さの典型みたいなものですね。それで、マクロファージ、樹状細胞などの自然免疫の細胞はすべてそのTLRをもっているということですが、獲得免疫とのつながりで重要だという樹状細胞は身体のどのあたりにあるんですか。
審良 全組織にあります。皮膚にも粘膜にも臓器にもあります。
岡田 それはある意味では生体防御の原始的なものと思っていいの。それとも原始的なものから進化した細胞ですか。
審良 マクロファージとかのレベルは下等だと思いますけれど、樹状細胞は獲得免疫とカップリングしていますから、やっぱり進化した細胞だと思います。
岡田 たとえば、獲得免疫の抗体ができるのは脊椎動物からですか。
審良 ある意味では、そうですね。
岡田 それ以外の動物でも、とにかく生体防御というのは、免疫細胞が貪食してというのはあるわけでしょ。
審良 ヒトデとか下等な動物でも貪食しますね。
岡田 だから、僕は非常に早く動物でできあがった生体防御の細胞がだんだん進化してと思ったけれど。
審良 そうです。樹状細胞は抗原提示細胞としてT細胞を活性化することで、自然免疫から獲得免疫へと橋渡しをしていますから。
岡田 ちょっと樹状細胞から獲得免疫にいく過程をわかりやすく説明してもらえませんか。
審良 病原体が外から体内に入ってきますよね。樹状細胞は食細胞ですので、まず食べます。それが中でバラバラになりまして、病原体の構成成分であればTLRが活性化されて、サイトカインを局所に放出して炎症反応を起こさせます。さらに病原体のペプチド(タンパク質の断片)を表面に出して(抗原提示)、そのあと病巣から近くのリンパ節に動いて、そこにいるT細胞に抗原を提示して活性化させるわけです。
審良 静男 氏
大阪大学微生物病研究所教授
1953年、大阪府生まれ。77年大阪大学医学部卒業後、大阪大学附属病院内科にて研修開始。78年市立堺病院内科に勤務。84年大阪大学大学院医学研究科(第三内科)修了後、日本学術振興会奨励研究員として大阪大学細胞工学センター免疫研究部門にて研究。85年米国カリフォルニア大学バークレー校免疫学部に留学。87年大阪大学細胞工学センター免疫研究部門助手。95年大阪大学細胞生体工学センター多細胞生体系研究部門助教授、96年兵庫医科大学生化学教授を歴任し、99年大阪大学微生物病研究所癌抑制遺伝子研究分野教授。井上学術賞、野口英世記念医学賞、大阪科学賞を受賞。2003年、自然免疫におけるToll-like受容体の役割とそれを介するシグナル伝達機構の先駆的研究によって武田医学賞を受賞。
新しいワクチンの開発も進む
岡田 僕が昔、微生物病研究所にいたときにウサギで抗体をたくさん作ろうと、抗原とは別にアジュバントというのを使っていたんですが、あれもTLRが反応しているわけですか。
審良 そうです。結局、TLRはある意味ではアジュバント受容体だというのがわかりました。アジュバントとして微生物の構成成分が使われていましたが、あれはTLRを刺激することによって免疫活性を上げていたわけです。
岡田 インフルエンザのワクチンで抗体があまりできないから、アジュバントを入れて人間に投与したらどうかとか言っているのだけれど。
審良 TLRの研究が進んだことによって、ワクチンに対する考え方も変わってきました。今は抗原プラスTLRのリガンドの合成物とか、そういうものによって新しいワクチンを開発する。
岡田 そういう流れになっていますか。
審良 アメリカのベンチャーとか製薬会社はそちらの方向に向かっています。特に細菌DNAであるCpGとか。CpGの受容体はTLR-9なんですが、TLRの7、8、9は獲得免疫にものすごく影響がありますから。CpGは合成できるし、副作用もあまりない。だから、アメリカでは兵士に前もってCpGを投与してバイオテロに対しての基礎免疫力を上げておいたらいいんじゃないかという話もあるくらいです。
岡田 そういうベンチャーは日本にもあるの。
審良 日本にもけっこうあります。特にCpGは80年代の初めに日本で発見されたんです。結核菌を弱めたBCGのもつ抗ガン作用はそのDNAによるものだと。CpGという名前は、細菌DNAに特徴的なCG配列から来ています。90年代になるとCpGにはそうしたアジュバント効果がものすごくあるというのがわかってきたんですが、そのメカニズムがわからなかったのであまり注目されなかった。それが、僕たちがTLR-9が受容体であると発表したことから、アジュバントとしていちばん効果的じゃないかとなった。アメリカではアレルギー治療薬として臨床試験をやっています。面白いのは、アメリカではブタクサ花粉のアレルギーが多いですけれど、花粉の抗原の上にCpGを4つつけるんです。そういう形で投与する。けっこう効果的みたいです。
岡田 抗アレルギー作用ももつわけですか。
審良 活性化されたT細胞が1型ヘルパーT細胞になるか、2型ヘルパーT細胞になるか、Th1(細胞性免疫を司る1型ヘルパーT細胞)、Th2(液性免疫を司る2型ヘルパーT細胞)反応というのがありまして、アレルギーはTh2のほうで起こります。CpGによってTh1に向かわせればTh2は抑制されるから、アレルギーは起こらない。同時に免疫力も高める。今は環境がずいぶんクリーンになってきて自分たちの身体と病原体がふれあうことがなくなっているためにアレルギーが増えていますから。
岡田 以前、戦後の日本はカイチュウとか寄生虫がいなくなったから花粉症が増えたといわれていましたが、それはやっぱり正しいんですか。
審良 正しいみたいですね。ある程度、身体の中に病原体が来ているほうが、身体の状態としてはよい。
岡田 やっぱり刺激がないとだめということですね(笑)。
審良 適度な刺激があってこそ免疫系も発達する。
岡田 それが生きているってことですからね。
審良 赤ちゃんの場合免疫力が弱いというのは、TLRの活性化が弱いみたいですね。最近、論文が出てきました。また、お年寄りになると免疫力が弱くなるのも同じみたいで、その発現が落ちてきていることがわかってきました。
岡田 今日はたいへん勉強になりました。お忙しいところ、どうもありがとうございました。
EYES
病原体を認識する受容体が見つかった!
TLRを利用したワクチンや免疫療法の開発も進む
細菌やウイルスなどの病原体から身体を守るために発達したのが免疫のシステムです。人間など哺乳動物では、自然免疫と獲得免疫とに大きく分けることができます。獲得免疫とは、リンパ球のT細胞やB細胞によって担われ、その名前のとおり後天的に獲得した認識、記憶によって病原体由来の抗原に対処しています。遺伝子再構成という方法によって、あらゆる病原体由来の抗原に特異的に対応するような受容体や抗体をランダムに作って(認識)、それを身体の中に維持(記憶)しているのです。一度かかった感染症にかかりにくくなるのは、そのためです。
一方、基本免疫とも呼ばれる自然免疫は、主にマクロファージや樹状細胞などによって担われ、病原体は死んだ細胞などと同じように食べられること(貪食)によって処理されます。病原体由来の抗原を認識する受容体をもったT細胞を活性化させること(抗原提示)などによって、獲得免疫の活性化も促しています。これまで病原体や異物に無差別に対応していると考えられていた自然免疫の細胞が、実は獲得免疫とは異なった方法によって病原体認識に特異的に関与していることがわかってきました。Toll-like receptor(TLR)という受容体が、特定の微生物成分を認識していたのです。
そのTLRの自然免疫における役割とシグナル伝達機構の解明に大きく貢献されたのが、今回、LF対談にご登場いただいた審良静男氏(大阪大学微生物病研究所教授)です。
審良氏は、免疫活性を上げる物質に反応しない、あるノックアウト(遺伝子欠損)マウスから、自然免疫に関わる未知の受容体が存在する可能性に着目。97年にTLRが報告されると、このTLRがその受容体であることを突き止められ、その後は各TLR(9種類)がどんな物質を認識しているかの解明に傾注されました。その結果、各TLRはそれぞれ異なる微生物成分を認識していること、さらにそれを認識すると細胞を活性化させるシグナルを出していることがわかり、自然免疫でTLRが重要な役割を果たしていることが明らかとなってきたのです。
自然免疫によって獲得免疫が活性化されるメカニズムもわかってきました。TLRによって樹状細胞が活性化され、T細胞に抗原を提示するとともに、サイトカイン(生理活性物質)や副刺激分子によって、T細胞を活性化させるプロセスが解明されつつあります。また、TLRの研究は、新しいワクチンや免疫療法の開発にも貢献しています。TLRを活性化させるようなアレルギー治療薬の研究も進んでいますし、患者さんの樹状細胞を取り出して活性化させ、ガン抗原とともに体内に戻すという細胞免疫療法も行われています。
TLRは、各TLRの組み合わせによって、病原体(微生物)そのものを認識しているとも考えられます。細菌やウイルスではその組み合わせが異なり、活性化のシグナルも変わってくるからです。進化の過程で蓄えられてきた生物の知恵ともいえるでしょう。生物の身体を守る免疫のシステムについては、複雑で多様な営みであるため、まだわからないことが数多くあります。今後の一層の研究の進展が期待されます。