LF対談

免疫は終わったと言われながらどんどん進んでいく。
やっているときにはわからない No.62(2011.2)

大阪大学免疫学フロンティア研究センター拠点長
審良静男 氏

財団法人 千里ライフサイエンス振興財団
岸本忠三 理事長

ノートのDNA配列をいつも見ていた

岸本 昔の話からしますと、審良先生は阪大の医学部を卒業してから心臓の臨床医をされていた。なんでまた免疫学をやろうと思われましたか。

審良 学生の頃から免疫には興味があったんです。石坂公成先生のIgEの発見が新聞でも話題にされていました。1975年か、そのへんの頃です。免疫の本を読んで、ちょっとした勉強はしていました。

岸本 それでも心臓の医者になられたわけですね。

審良 免疫はまだ学問としては未熟な時期だったので、臨床医としては面白くない。医者としての醍醐味は心臓とかのほうにあるのかなと。免疫の研究はしようと思っていましたけど、医者として働くときは…。

岸本 心臓がやっぱり面白いですよね。何年ぐらいやりましたか。

審良 市民病院で2年。内科だったので心臓以外に消化器も呼吸器も全部やりました。心臓は好きだったというだけです。

岸本 それから阪大の僕の研究室に入られました。お世辞じゃないけど、たぶんこの人はえらくなるやろなと思った。何か変わっていましたよね(笑)。

審良 自分ではわからないですけど。

岸本 あの頃はコンピュータとかあまりなかった。だから、DNAのシークエンスもどっかからコピーしてくるわけやけど、いつもノートに貼った配列を線を引きながら見ていましたよね。我々はATGCが並んでいるのを見たって何もわからない。それがここ、ここというのがわかるんですな。その頃、スパイの暗号を見たらパッとわかる特別な才能を持った子供が出てくる映画があって、よう似とるなと(笑)。

審良 それは僕だけじゃなく、分子生物学をやっている人は、あの頃はシークエンスしかなかったものだから、それを読むことばかりやっていました。

岸本 パッと見たら、ここが大事やなとわかるわけですか。

審良 ある程度わかります。分子生物学的なところから入ったので、そのへんの感覚は免疫学をやっていた人とは…。岸本先生の研究室に入った1日目から、僕は免疫学をやらずに本庶(佑)先生のところに行かされましたから。

岸本 堂島川をはさんで向こう側にある本庶先生の研究室に分子生物学の勉強に行ってもらいました。そしたら、新しい機械がピカピカと光っていて、新しくできたパチンコ屋かいなと(笑)。川を渡って向こう側に行ったらまったく違う世界があったと言うてましたよね。

審良 分子生物学をまったく知らなかった。学生時代にも習っていなかった。説明を受けても全然わからなかったので、最初の数カ月はしんどかったですね。まったく違う世界というのは、自分が考えていた世界と違う、今まで経験したことのないような学問だったからなんです。機械以上に。

岸本 シークエンスを見てパッとわかる人とわからん人というのはありますよね。

審良 あります。こっちからこう読んで、こっちからこう読むと相補的になるというような見方もしないといけないので。逆に言うと、コンピュータを使うと特定の配列だけでホモロジー(相同性)をかけてしまうので、目のほうがフレキシビリティがあると言うか。

岸本 それが後のToll(トル)様受容体(Toll likereceptor=TLR)のファミリーを見つけるときにも生かされたのかと。

審良 その頃はまだゲノムプロジェクトが終わっていなかったので、毎日、学生に新しいものが出てきたら見つけるようにと言っていました。

岸本 暗号みたいなものやな。我々が見たってまったく…。

審良 でも、あれは目で見てもわからない。コンピュータを使ってホモロジーで見ていったんですけど、各TLRは40%くらいしか似ていない。単に配列から見ても外れているんです。IL1受容体と中側が似ているとか、立体構造で見ないと。

岸本 それも一種の才能やな。

審良 いや、あれは学生がほとんど…。

岸本 昔はノートに配列を貼って線を引いて、今はコンピュータを見ているわけね。だから、部屋にじっとおってちっとも働かん(笑)。いつも5時頃になったらおらへんのや。家に帰ってな。

審良 それは研究とは関係なしに、学生時代から思っていたのは、徹夜してやっても成績は良くならないということで。

岸本 普通の人はそう思わない。印象に残っているのは、武田医学賞の授賞式で、武田の社長があなたの亡くなられた奥さんに「大変でしょう。夜遅くまで帰ってこないし、土曜日曜の休みもないし」と聞いたら、奥さんは「いつも5時頃には帰ってくるし、土曜日曜も家にいます」と(笑)。社長は話につまってね。えらい人、大将というのは働かんのやな。

審良 若いときは働いていました。

岸本 働いていた?
僕のところにおったときから全然働いていなかった(笑)。

審良 先生の研究室では7時か8時には帰っていましたけど、アメリカに留学したときは夜の11時まで働いていました。教授になってからは、何をするかテーマを見つけ、方向性を考えることが一番大事だと思っているので、データが出てこないと自分としては何もできないんです。いまは、家にいてもメールでやりとりできますし。

ワクチンのアジュバント利用につながる

岸本 それで2004年、2005年でしたか、論文の引用が世界で一番というのが2年間続きましたよね。これがあなたの一番いい論文やというのは何ですか。

審良 やっぱりCpG-DNAの論文で、TLRの9番目の受容体がバクテリアのDNAを認識するというのが、今ではもう引用回数が2600くらいいっていますね。

岸本 2000年の論文ですね。うちのIL6の論文の引用回数が1700か1800やから、だいぶ抜かれとるわけや(笑)。DNAを認識する受容体があるというのが大きな発見ですね。誰もそうは思わなかった。

審良 僕も初めは思っていなかったですから。一応、免疫を活性化するものだったら何でもサンプルを渡して、各TLRが何をリガンド(結合物質)としているか試していただけだったので。

岸本 バクテリアのDNAが免疫を刺激してというのはドイツで…。

審良 そのときはそういうことをやっているのも知らなかった。

岸本 DNAはバクテリアの中にあるわけやから、食べてエンドソーム(小胞)で壊して認識する。その受容体はエンドソームの膜に運ばれるということですね。

審良 それまでの論文を読んでも、中に入ったDNAは細胞質で認識されると書かれている。だから、みんな細胞質を精製していたんですよ。そういう時期だったので、誰も膜型の受容体があるとは思っていなかったんです。

岸本 貪食されるのではなく、細胞に感染したバクテリアのDNAはどうなるんですか。

審良 RNAを認識するものは見つかっていて、DNAは僕らも今やろうとしていますけど見つかっていません。世界中で競争しています。

岸本 自然免疫がTLRを介して活性化されるとサイトカイン(液性因子)が出され、Tリンパ球やBリンパ球が刺激されて獲得免疫系が働き出す。だから、ワクチンで免疫する場合も、自然免疫系を刺激するような方策をしなかったら効かない。そうですね。

審良 そうです。

岸本 今のインフルエンザのワクチンというのは、ウイルスの膜タンパクのHAを使っていますよね。HAは自然免疫系を刺激するんですか。

審良 しません。抗原にしかならないです。この間、論文にしたんですけど、マウスの実験で生きたウイルスと死んだウイルスのワクチン、そして抗原成分だけのスプリット型ワクチンの3つを試してみたんです。そしたら、死んだウイルスはちゃんと免疫が起こる。ところが、現在使っている成分だけのは全然起きない。

岸本 今のも、ちゃんと効いているでしょう。予防注射し出してから、僕は1回もインフルエンザにかかっていないけどな。

審良 それはデータでも出しましたけど、メモリー(免疫記憶)があるからです。子供とか1回もかかっていない場合は効かないだろうと。

岸本 メモリーがあったら自然免疫系をバイパスしてもいいわけ? 全然メモリーがない最初やったらやっぱりアジュバント(免疫強化剤)がいるわけですか。ウイルス由来のRNAかDNAが。

審良 インフルエンザの場合はRNAで、死んだのが効くというのはその中にRNAが入っていて。

岸本 そしたら、これからはそうしたほうが…。

審良 いいです。厚労省では死んだウイルスのワクチンという方向になっています。もう今は弱毒化したLPS(リボ多糖)は、アジュバントとして子宮頸がんやB型肝炎などインフルエンザ以外のすべてのワクチンに入っています。

岸本 がんの場合もそうですね。ペプチドワクチンと言うとるけど、あれも何かを入れないと…。

審良 入れたほうがいいと思います。世界の考え方はそういう方向になっています。

岸本 がんワクチンのアジュバントは何が一番いいですか。

審良 二本鎖RNAがいいという話です。一本鎖RNAもCpG-DNAも候補ですが、CpG-DNAは、マウスの場合ほどヒトでは効かないかもしれません。TLRの7番目が一本鎖RNA、9番目がCpG-DNAを認識するんですけど、ヒトはマウスと違って9番目が出ている細胞が限られている。マウスと発現が違うんです。

審良静男 氏

審良静男 氏

大阪大学免疫学フロンティア研究センター拠点長

1953年、大阪府生まれ。77年大阪大学医学部卒業後、同大学附属病院研修医、市立堺病院内科医を経て、80年大阪大学大学院医学研究科へ。85~87年米国カリフォルニア大学バークレー校免疫学部に留学。87年大阪大学細胞工学センター助手、95年細胞生体工学センター助教授。96年兵庫医科大学教授。99年大阪大学微生物病研究所教授。2007年、文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラムに採択された大阪大学免疫学フロンティア研究センターの拠点長に就任。専門分野は免疫学。自然免疫におけるToll-like receptor(TLR)の役割とそれを介するシグナル伝達機構の研究が国際的に高く評価される。受賞は、武田医学賞、ロベルト・コッホ賞、朝日賞、ウィリアム・コーリー賞、恩賜賞・日本学士院賞、ミルシュタイン賞、文化功労者ほか。米国科学アカデミー外国人会員。

動脈硬化とか循環器系の炎症にも

岸本 結局、審良先生が道を切り開いてきた自然免疫の研究というのは、医療の面ではアジュバントとして生きてくるわけですね。他にはどういうものがありますか。

審良 今、動脈硬化とかメタボリックシンドロームでもTLRが話題にされています。循環器系とか代謝系の学会に呼ばれることが多くなっています。

岸本 医療としての応用で。

審良 応用ではなく、病気に関わっているということで。

岸本 動脈硬化でもこの頃はCRPを測る。それはIL6を測っとるわけや。炎症を見ている。だから、直接病気につながってくるのはIL6であって。

審良 そうなんですけど、その前の段階で何かリガンドがTLRを刺激していると。リガンドが何かはまだわからないですね。

岸本 最初はTLRが引き金になってと。

審良 リガンドは病原体じゃないと言われているんですね。内在性のリガンドがあると。TLRの2番目と4番目は、免疫系の細胞だけではなく、血管内皮細胞とか全身に発現している。そして、IL6やTNFとかの炎症性サイトカインを出す免疫細胞を呼び寄せる。再還流実験というのがありますよね。いったん血管を括ってからほどいてどれくらい炎症が起こっているかを見る。2番目と4番目をノックアウトすると炎症が起こらないんです。

岸本 TLRの4番目をブロックすれば、敗血症のショックが防げるんじゃないか、いい薬ができるんじゃないかと、武田とエーザイがやったけれどパッとしない。

審良 あれはTNFと同じで遅すぎるという話です。結局、敗血症が起こってしまったらTNF抗体を使っても効かない。

岸本 TNFというのは敗血症のショックに関わるから、抗体を使ったら死亡を防げるんじゃないかと。ところが、臨床試験をやっても少しも死亡率は下がらない。もう起こってしまったものには働かないということですね。

審良 そのTNFでだめだったものがTLRでいけるはずがない。

岸本 TNF抗体は慢性の炎症には効くんじゃないかということで、関節リウマチにものすごく効果を発揮したわけやけど、そしたら同じことであって、TLRも循環器系の炎症を抑えて動脈硬化とかを防ぐような薬になるという可能性はあるわけですか。

審良 可能性はあります。

岸本 そうすると、自然免疫の次の発展はそういう慢性炎症を防ぐというか、そういうことにつながっていくわけですか。

審良 だから、今一番注目されているのは内在性のリガンドが何かということですね。アジュバントのほうは、どういう組み合わせでワクチンを作るかとかという段階になっています。

岸本 で、先生自身は今なんでそういうことをやらないで、LPSで誘導されるタンパクを片っ端からノックアウトしたりしているんですか。この人はいったい何を狙っているんやろと(笑)、そういう疑問が出てくるわけや。

審良 そう言われるとつらいんですけど、ノックアウトして新しいテーマを見つけようと。まだ見つかってはいないです。

留学する若い研究者が減っている

岸本 大阪大学に免疫の世界的拠点を作りましたよね。これから免疫はまだまだ発展していきますか。

審良 それはこれまでと同じで、免疫は終わったと言われながらどんどん進んでいく。結局、やっているときは全然わからないですね。僕らもやっていて思うのは、研究って前が見えない状況下でやっていて、どこかでブレークスルーが起きるとバンといくということであって。

岸本  免疫の拠点として、世界とも競争していけるようになるには何が必要ですか。

審良 やっぱりいい人をどんどん集めてくるというのが一番で、これからは結集してお互いに協力してやらないと勝てない。アメリカでも、ヨーロッパでも免疫のグループが1つの建物の中に集まっていく傾向になりつつあります。

岸本 免疫の研究をしようと、若い人は集まりますか。

審良 ここの研究自体はいいんですけど、10年の時限が定められているので、そのことに不安を持つ人が。

岸本 それはまた続けたらよろしいやん。

審良 でも、組織自体がなくなるかもしれないというのがものすごく不安みたいです。いいことさえやっていれば必ずどこかに来てくださいとなると思うんですけど、そのへん若い人は安定を志向する傾向があるので。留学もそうです。僕らの時代なんてポスドクで海外に行った時点で、どこへ帰れるのかもわからなかった。

岸本 僕も九州からアメリカに行って、どこへ帰れるのか、どこと言ってなかった。それで4年ほどおったけど、それでいいわけやけどね。今の人はそうは思わない。

審良 向こうで実績ができるかどうかわからないという不安が先に走るので、僕のところでも最近留学が減りました。僕らの時代は留学しなかったらおかしかったです。しないと、たいしたことないという雰囲気になって。

岸本 しないでそのまま教授にもなっている。

審良 そういう道のほうがいいかなという人が増えてきました。

岸本 それはある程度歳をとってからボディブローのように利いてくるんや。日本全体に響いてくると思うわ、そのうちにな。今日はどうもありがとうございました。

 

EYES

ウイルスや細菌など病原体を認識する自然免疫の受容体TLRの役割を解明

自然免疫がTLRを介して
獲得免疫を活性化する仕組みの解明は新たなワクチン開発につながる

ウイルスや細菌などの病原体から私たちの体を守る免疫のシステムにおいては、最初、体に入ってきた病原体はマクロファージや樹状細胞などの自然免疫系の細胞によって主に食べられること(貪食)で処理されます。次いで、Tリンパ球やBリンパ球という獲得免疫系の細胞が働き出し、キラーTリンパ球や、Bリンパ球の作る抗体などによって病原体に対処します。

獲得免疫系の細胞では、遺伝子再構成という方法によって病原体由来のさまざまな抗原にも特異的に対応する受容体や抗体が作られます。そして、そうした受容体や抗体を持った細胞は選択的に増えて病原体に対処し、その一部は免疫記憶として体に残されます。そのため、病原体が再び体に入ってきたときには一度目より速やかに対処できるようになります。この仕組みを利用したのがワクチンによる予防接種で、従来は免疫といえばこの獲得免疫のことを指していました。

一方、自然免疫のほうは非特異的で、Tリンパ球に病原体由来の抗原を提示するという役割もわかっていましたが、人間など哺乳類においては獲得免疫までの一時しのぎの免疫反応であると考えられていました。その自然免疫が新たに脚光を浴びるようになったのは、1996年にショウジョウバエにおいて真菌(カビ)感染に対してToll(トル)という受容体が特異的に働いているという報告からでした。翌年には人間にもTollに類似した遺伝子があることが発見され、Toll様受容体(Toll-likereceptor=TLR)と名付けられました。

そのTLRの自然免疫における役割の解明に多大な貢献をされたのが、今回、LF対談にご登場いただいた審良静男氏(大阪大学免疫学フロンティア研究センター拠点長)です。審良氏は、97年にMyD88という分子の遺伝子をノックアウト(欠損)したマウスが細菌成分のLPS(リポ多糖)に反応しないことを偶然発見され、MyD88をシグナル伝達分子とする未知の自然免疫の受容体が存在するのではないかと考えられました。同年にTLRが報告されると、これがその受容体ではないかと、まずTLRは5個あるとのその後の報告を受けて、TLRのファミリーを探すことに着手されました。

そして、審良氏が見つけられた7個を含めて計12個のTLRファミリーの遺伝子をそれぞれノックアウトしたマウスを作製してLPSを認識する受容体を探され、論文はアメリカの研究者に先を越されましたが、98年にTLR4がLPSの受容体であることを突き止められました。その後は、他のTLRが何を認識しているかの解明に取り組まれ、中でも世界的に注目されたのが、TLR9が細菌のDNAを認識しているという2000年の報告でした。

ウイルスや細菌のDNAは、中央にCGという配列を持った短い塩基配列の単位(CpG-DNA)が数多く見られます。審良氏は、そのCpG-DNAをTLR9が認識していることを突き止められたのです。生物の共通言語ともいえるDNAに対しても、TLRは細菌のDNAを見分けている――この報告は驚きを持って迎えられました。その他、審良氏は、TLR5が細菌の鞭毛の成分であるフラジェリンを認識し、TLR7がウイルスの一本鎖RNAを認識しているなど、それぞれのTLRが何を認識しているか、現在明らかになっているもののほとんどを見つけられています。

また、自然免疫系の細胞がTLRを介して、どのようなメカニズムで獲得免疫を活性化しているかの解明にも取り組まれ、TLRがないと獲得免疫が誘導されないことも明らかにされました。こうした研究成果は、それまで実験などで抗体を作るためにアジュバント(免疫強化剤)として利用されていた細菌成分がどうしてそのような効果を発揮するのか、その分子的基盤を解明することにもなりました。その結果、そうしたアジュバントを利用した新たなワクチン開発も行われています。

最近では、TLRは動脈硬化など循環器系の病態などとの関連も注目されています。TLRは自然免疫系の細胞以外、たとえば血管の内皮細胞にも発現しています。それがどのように動脈硬化などと関わっているのか、今後の研究の進展が期待されます。

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