LF対談
自分は研究者として何を残したいか。
弟子と、それから薬なんですね No.70(2013.10)
東京大学大学院医学系研究科 教授
門脇 孝 氏
公益財団法人 千里ライフサイエンス振興財団
岸本忠三 理事長
肥満に伴ったアディポネクチンの低下が
インスリン抵抗性の原因と提唱
岸本 日本学士院賞の受賞、おめでとうございます。
門脇 ありがとうございます。
岸本 先生は東大の医学部を出て、第三内科に入られる。当時は小坂(樹徳)先生でしたよね。糖尿病をやろうと思って、第三内科に入られたわけですか。
門脇 そうですね。
岸本 それでね、わからないというか、自分だったらそうしないと思うのが、糖尿病といったらもうインスリンが見つかった段階で、根本的なところは終わっているんじゃないかと。それをどうして糖尿病をやろうと思われましたか。
門脇 今から考えたらいくつか理由があるんですけど、インスリンはあくまで対症療法で、低血糖という副作用もあります。また、糖尿病はどんどん増加していますし、その原因を突き止めて、予防法や根治療法を見つけたいというのがやはり第一だったと思います。それに、インスリンを使っている場合でも、患者さんは食事療法や運動療法の負担があって。
岸本 そうですね。
門脇 糖尿病だからといっておいしいものが食べられなかったり、運動が嫌いな方まで運動を強いられるのは負担だと思ったので、すべての患者さんにそういう負担がないような治療法、あるいは予防法を見つけたいと思ったわけです。
岸本 やっぱり医者の発想ですね。
門脇 それから、非常に大きかったのは、小坂先生がその当時、糖尿病の原因について、世界の主流ではなかった考え方を持っておられて、その研究のオリジナリティに惹かれたことがあります。
岸本 それはどういう?
門脇 2型糖尿病はやはり肥満型が多いですから、世界的には肥満に根本原因があって、そのために膵臓のβ細胞が疲弊してインスリンを出さなくなるという考え方が一般的だったんです。ということで、インスリン抵抗性、インスリン作用についての研究が非常に発展していました。小坂先生は、肥満は確かに糖尿病のリスクファクターですけど、糖尿病になる人とならない人がいて、それにはインスリン分泌に遺伝的な、あるいは体質的な差があるのではないかとずっと研究されていたわけです。結局、その小坂先生の考え方は後々に世界の大勢になりました。
岸本 インクレチン(インスリン分泌を促進する消化管ホルモン)とかの研究を通して…。
門脇 そういうことにもつながってくるんですね。
岸本 今の糖尿病のトピックスの1つが、そのインクレチンの分解酵素のインヒビター(阻害薬)、そしてもう1つが先生のご専門のアディポネクチンで、先生の業績として一番脚光を浴びたのがアディポネクチンの受容体の発見ですけど、それに対して「ほんまに受容体か」という反論もありましたね。
門脇 はい。アディポネクチンは1995年、96年に大阪大学の松澤(佑次)先生のグループを含め、4つのグループによって独立に発見されました。
岸本 アディポネクチンという名前は松澤先生が付けられたんですよね。脂肪細胞から出て、ベタベタ引っつくっていう感じが上手でしたね。普通なら外国人が上手な名前を付けて、そっちになってしまうんだけど。
門脇 そうですね。発見者の1人、MIT(マサチューセッツ工科大学)のロディッシュが付けた名前はAcrp30というものでした。
岸本 日本人が付けるみたいな名前や(笑)。
門脇 そして、松澤先生のもう1つの大きな発見は肥満に伴ってアディポネクチンが低下することで、アディポネクチンは何かよい働きをする善玉で、その低下によっていろいろな生活習慣病が起こることを見つけられました。これは非常に大きかったと思います。で、私たちはそのアディポネクチンにインスリン感受性を改善し糖尿病を抑える働きがあることを、2001年に『Nature Medicine』に報告しました。
岸本 それは注射してですか。
門脇 はい。肥満のモデルマウスにアディポネクチンを注射すると、もうそれだけで血糖値やインスリン抵抗性、脂質異常が改善したんです。それで、アディポネクチンにインスリン感受性を上げる作用があること、そして肥満に伴ってアディポネクチンが減ることがインスリン抵抗性、糖尿病の原因だということを提唱しました。その後、アディポネクチンの受容体探しの世界的な競争が起こりまして、2003年に私たちが世界で初めて受容体を同定しました。
岸本 それに対して、なぜ反論があったんですか。
門脇 まず、この受容体がそれまで知られていなかった構造をしていたんです。
岸本 向きが逆なんですね。
門脇 はい。逆の向きの7回膜貫通型受容体で、N末端側が細胞内にありました。何らかのミスラベルとか、実験上の間違いではないかと、何回も何回もやってこれは間違いないと確かめたうえで発表したんですけと、非常に勇気が必要でした。
岸本 それは、どうアディポネクチンの作用を伝えるんですか。
門脇 シグナル伝達の詳細なメカニズムはわかりませんでした。
岸本 それで、ベタベタ引っついているだけやないかと、みんな言ったわけですね。
門脇 そうですね。最終的に認められるようになった大きなきっかけは、受容体のダブルノックアウトマウスを作りまして。
岸本 2種類、受容体があるんですね。
門脇 はい。1型をノックアウトしただけではアディポネクチンの結合はなくならなくて、2型をノックアウトしても部分的に残るんですけど、両方をノックアウトすると完全になくなります。それで、アディポネクチンの作用を伝える受容体に間違いないということを2007年に報告して、一応結着しました。じゃあ、作用をどう伝えるか。まだ完全に解明されているわけではないですけど、例えば1型受容体についてはカルシウムやAMPを増やして、糖代謝促進や脂肪燃焼などに働くAMPキナーゼを活性化するというところまでは提唱しています。
肥満になると大型の脂肪細胞が増えてアディポネクチンが低下する
岸本 アディポネクチンの受容体は筋肉とかそういうところにあるんですか。
門脇 ほぼ全身の臓器にあって、肝臓や筋肉にある受容体はインスリンの感受性を上げる作用を伝えています。また、マクロファージにある受容体は1型ですけど、炎症を抑える。血管内皮にあるのは2型ですけど、内皮機能をよくする。全体としては糖・脂質代謝をよくするのと、炎症を抑えて血管機能をよくする。今のところは全てよい作用を果たしていると思っています。
岸本 松澤先生がアディポネクチンと言っても、ほんまかいなと思っていたのは、アディポネクチンは脂肪細胞から出るというのに、太ったら減るというのはどういうことやと。それはどう説明するんですか。
門脇 松澤先生が学会で話をされたときに、私も先生と同じことを質問しました(笑)。実際は、太ると脂肪細胞から出るほとんどのものが増えてくるんですね。
岸本 TNFとか。
門脇 TNFα、それからIL6も増えてきます。
岸本 悪いことを起こすほうですね。
門脇 はい。で、ほぼアディポネクチンだけが減ってきます。逆に言ったら、だからこそアディポネクチンは善玉だと松澤先生は考えられたわけです。肥満に伴って低下する詳細なメカニズムはまだわかっていませんけど、アディポネクチンは6量体、12量体、18量体と多量体を作るんです。
岸本 ごちゃごちゃしている。
門脇 多量体になると分泌されやすいことがわかっていますから、多量体形成が活性には必要だと考えられます。多量体は脂肪細胞の中の小胞体で作られ、それが肥満に伴う小胞体ストレスなどによって抑制される。それがアディポネクチンの血中レベルを下げる原因ではないかと。もう1つは、アディポネクチンの受容体も肥満のときに減るんです。
岸本 脂肪には2種類あると言われますよね。僕が知っているのは、松澤先生が相撲取りを連れてきてCTでお腹を撮ってね(笑)、それで内臓脂肪と皮下脂肪という概念を出されましたね。そのうちの内臓脂肪がよくないと。
門脇 はい。基本としては閉経前の女性が皮下脂肪をたくさん持っていて、男性と閉経後の女性は脂肪がたまるとすると、大部分が内臓にたまります。
岸本 年をとってくると、女の人もお腹が出てくる。魅力がなくなりますね(笑)。
門脇 で、なぜ内臓脂肪が悪いかというと、内臓脂肪にもたまる限界容量があって、それを超えると肝臓や筋肉やいろんなところにたまっていくんですね。
岸本 脂肪肝になる。
門脇 いわゆる異所性脂肪と言いますけど、それが臓器障害を起こします。それから、これは私たちが言いだしたことですけど、脂肪細胞には小型と大型がありまして、太ると脂肪細胞が大きくなって肝臓や筋肉の脂肪を燃やす働きもあるアディポネクチンが減って、本格的に肝臓や筋肉に脂肪がたまる。それが内臓脂肪症候群、メタボリックシンドロームと言われる状態なんです。
岸本 脂肪細胞には小さいのと大きいのがあって、太った人は大きいんですか。
門脇 はい。脂肪細胞の肥大と言って、肥大すると形質が変わって、TNFαやIL6を出してアディポネクチンが減ります。
岸本 それは内臓にあるんですか。
門脇 内臓にも皮下にもあります。私たちが小型と大型の重要性に気づいたのは、糖尿病の薬であるチアゾリジン(商品名アクトス)を投与すると、小型が増えて大型が減るんですね。そのことによって多少、体重は増えるんですけど、アディポネクチンをよく出すような細胞に置き換わる。
岸本 肥満というのは、アディポネクチンをあまり出さない大型の脂肪細胞が増えるということなんですか。
門脇 そのとおりです。で、なぜ太るとアディポネクチンが低下するのか。アディポネクチンは善玉なので、食欲を減らし、エネルギー消費を上げて肥満を抑制する方向に行くんじゃないかと、一般的に考えられ、私もそう考えていました。ところが、実験をすると、まったく逆の結果が出た。食欲を増やし、エネルギー消費を抑える。結局、私たちが2007年に提唱したのは、飢餓のときにアディポネクチンが上昇しますが、それが効率的に脂肪を蓄積して、蓄積した脂肪から分解して出る脂肪酸を肝臓や筋肉で燃やしてエネルギーを得ることに役立つのです。脂肪を燃やして、糖は脳で使うために節約する。そういう仕組みが飽食のときに肥満になると低下するというバイオロジカルな意味を持っているんじゃないかと考えています。
門脇 孝 氏
東京大学大学院医学系研究科 教授
1952年、青森県生まれ。78年東京大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院内科研修医を経て、80年同大学医学部第三内科入局。86年米国国立衛生研究所(NIH)糖尿病部門客員研究員。96年東京大学医学部講師。2001年同大学大学院医学系研究科助教授、03年教授。11年同大学医学部附属病院長、12年同大学トランスレーショナルリサーチ機構長。08年より日本糖尿病学会理事長。専門分野は糖尿病・代謝学。脂肪細胞から出るホルモン、アディポネクチンのインスリン感受性亢進作用を発見。アディポネクチン受容体を同定し、その構造・機能の解析も進める。受賞は、ベルツ賞、持田記念学術賞、上原賞、武田医学賞、日本学士院賞、紫綬褒章ほか。
アディポネクチン受容体を活性化する化合物によって薬の開発を
岸本 もう1つ、アディポネクチンはほんまに大事なんかと思っていたのは、ものすごい量があるわけですね、血中に。だから、減った分を補えば、糖尿病の治療になるとは単純にならないのではないかと。
門脇 それも1つの大きなポイントですけど、アディポネクチンは12量体、18量体で働くので、量は多くても有効なモル濃度から見ると、そうでもないと。実際、アディポネクチンを補充するといろんな病態が改善します。
岸本 そうしたら、どうして製薬会社はアディポネクチンを糖尿病の治療薬にしないんですか。僕の考えでは、もう十分な量が体の中にあって、大量に入れないと、何にもならないのではないかと。
門脇 完全にではなく、部分的に補充しただけでもかなり病態はよくなります。
岸本 それなら何で治療薬として出てこないんですか。先生のやっておられる薬も、受容体を活性化する化合物ということですよね。なぜアディポネクチンそのものを補うっていう治療法が出てこなかったんですかね。
門脇 おそらくアディポネクチンは通常のホルモンと違って、18量体などの高分子量多量体でないと効かないので、製剤的にもいろんな困難があったと思います。それから、この分野の研究は日本の研究者が先頭を切っていますが、やはり日本も含めて、製薬会社は欧米のものに投資する傾向がまだあるのではないかと。そのほうが安心感もあるんじゃないでしょうか。
岸本 そうそう、あるんですね。
門脇 ですから、私たちはともかく自分たちでアディポネクチン受容体を活性化する低分子化合物を見つけて、それがすぐ薬になるものではなくても、Proof of Conceptまで示して、初めて製薬会社も興味を持つんじゃないかと。アディポネクチンはAMPキナーゼを活性化することがわかっていますけど、今、多くの製薬会社がAMPキナーゼをターゲットにしているんです。
岸本 そうなんですか。
門脇 だけど、AMPキナーゼを活性化する薬って、だいたいうまく行っていない。ミトコンドリアの呼吸鎖を止めてATPを減らして、AMPを増やしている。それではよい薬にはならないですね。私たちはミトコンドリアの呼吸鎖を止めずに、アディポネクチン依存的にAMPキナーゼを活性化する化合物をいくつか見つけました。その化合物を投与すると、糖代謝だけでなく、脂質異常や、あるいは肥満によって短くなる寿命もかなり改善する Proof of Concept のデータを出しています。この段階で、いろんな製薬会社からも声がかかるようになってきました。
岸本 アクトスの武田薬品も言ってきていますか(笑)。
門脇 私が岸本先生の書かれたものを読んで感銘を受けたことの1つが、研究者が残せる2つのものということで、1つは弟子、後進ですね。未来に向かって自分の切り開いた研究を引き継いでくれる。もう1つは薬です。それが、やはり貢献するということで。私もちょうど還暦を迎える年齢になりまして。
岸本 そんなになりましたか。
門脇 はい。それでやはり自分は研究者として何を残したいかを意識しはじめました。弟子と、それから薬なんですね。以前は、シグナル伝達とか作用機序の解明にすごく興味がありましたけど、それだけでは物足りなくなった。病気を治す、薬を作ることが非常に大事だと考えるようになったモチベーションは、岸本先生のお仕事や書かれたものから非常にわき上がるものがありましたね。
岸本 最後に、先生は坂口(康蔵)、小坂と続く日本における伝統ある糖尿病の教室の跡継ぎですよね。今は糖尿病学会の理事長でもある。それで聞きたいのは、糖尿病は素人的に考えたら、糖が利用されないで血液中に糖が、グルコースが増えるという状態ですよね。
門脇 はい、そのとおりです。
岸本 そうしたら、食事では直接糖が増えるようなものを食べなきゃいいんやないかと。ごはんを食べないで、肉とか、天ぷらとか食べる。僕はそれが正しいんやないかと思って、ごはんはデザートみたいにちょっと食べるだけで。それはいかんのですかね(笑)。
門脇 糖尿病の基本的な考え方としては、全体のカロリー制限が一番大事だと思います。
岸本 僕は食べたいだけ、食べとる。
門脇 日本人の食事は、平均すると糖質が60%なんですね。ですから、糖質を制限することが一番カロリー制限につながるんです。もう1つは、アディポネクチンの性質とも関係していて、なぜ血糖値が上がるかというと、インスリンが効きにくくなるから。なぜインスリンが効きにくくなるかというと、脂肪細胞が肥大してアディポネクチンが出なくなるから。そのことを考えると、結局は肥満を抑えるということが大事なので、脂肪やタンパク質も摂りすぎないということですね。
岸本 肉や天ぷらも食べすぎるといかんのですね(笑)。今日はどうもありがとうございました。
EYES
脂肪細胞が分泌するアディポネクチンと インスリン抵抗性との関係に迫る
肥満に伴ってインスリン抵抗性が引き起こされるのはどうしてなのか。
アディポネクチンの機能解析を進める
糖尿病は血糖値が高い状態に止まり、悪化すると意識障害や細小血管障害による網膜症、腎症、足壊疽などの深刻な合併症を引き起こす病気です。そのうち1型糖尿病は、細胞への糖(グルコース)の取り込みに働くインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が自己免疫疾患などにより障害を受け、インスリンが極端に不足することによって生じます。また、糖尿病の多くを占める2型糖尿病は、インスリン分泌低下の遺伝的な体質に、インスリン感受性低下(インスリン抵抗性)が重なって生じますが、現代では後者の比重が増していると言われます。インスリンは分泌されても、それを上手に利用できなくなっているのです。
インスリン抵抗性の大きな要因として考えられているのが、高カロリー食、運動不足などによる肥満です。では、どうして肥満になると、インスリン抵抗性が生じるのか。脂肪細胞が分泌するホルモン、アディポネクチンに着目し、肥満に伴って脂肪細胞が肥大すると、そのアディポネクチンの分泌が低下し、それがインスリン抵抗性の原因ではないかと世界に向けて提唱されたのが、今回、LF対談にご登場いただいた門脇孝氏(東京大学大学院医学系研究科教授)です。
門脇氏は、東大の医学生・研修医の頃から糖尿病に関心を持たれ、NIH(米国国立衛生研究所)に留学されていた際には、世界で初めてインスリン受容体の遺伝子の異常が糖尿病の1つの原因になることを報告されました。その後も、膵臓のβ細胞のミトコンドリア異常や、インスリン受容体がシグナルを伝える基質(IRS)の研究などを進められますが、肥満とインスリン抵抗性の関係を調べるために最初に注目されたのが転写因子PPARγでした。
PPARγは脂肪細胞の分化を促進する分子として報告されていました。そして、門脇氏は糖尿病の治療薬であるチアゾリジン誘導体(商品名アクトス)がPPARγを活性化して脂肪細胞の分化を促し、インスリン抵抗性を改善させていることを見つけられます。その際、増えていたのは小型の脂肪細胞でした。肥満に伴って脂肪細胞が肥大すると、TNFαなどインスリン抵抗性を促す分子が分泌されます。しかし、肥大する前の小型の脂肪細胞はインスリン感受性を上げる“善玉”のホルモンを分泌しているのではないかと考えられるようになりました。
小型の脂肪細胞の遺伝子発現の解析の結果、その“善玉”として着目されたのがアディポネクチンです。アディポネクチンは、大阪大学の松澤佑次氏のグループなど、世界の4つのグループによって独立に発見されていました。そのアディポネクチンを肥満・糖尿病のモデルマウスに補充すると、糖尿病は改善しました。モデルマウスではアディポネクチンの分泌が低下していました。その結果を受けて、門脇氏は肥満に伴ったアディポネクチンの分泌低下が、インスリン抵抗性・糖尿病の原因ではないかと2001年に提唱されたのです。この報告は、世界的な注目を集めました。
アディポネクチンは、肝臓や筋肉などの細胞でどのようにしてインスリン感受性を上げているのか。その解析も進んでいます。まず門脇氏はアディポネクチン受容体の同定に成功されます。それは、それまで知られていたホルモン受容体(G蛋白質共役受容体)と同じように7回膜貫通型でしたが、N末端側が細胞内、C末端側が細胞外にあるという逆の位置構造を持つ新しいタイプの受容体でした。アディポネクチンは、その受容体を介してカルシウム濃度上昇やAMPキナーゼ活性化を促し、ミトコンドリア合成や脂肪酸燃焼などによってインスリン感受性を上げていることがわかってきました。
筋肉細胞のAMPキナーゼは運動やカロリー制限でも活性化され、インスリンとは別経路の糖の取り込みにも働くことなどがわかっていました。そのため、糖尿病治療薬のターゲットにもなっていました。門脇氏も、アディポネクチン受容体を活性化する薬の開発に取り組まれています。アディポネクチンはAMPキナーゼを活性化するだけではありません。運動やカロリー制限をしなくてもよいほどの効果的な治療薬が誕生することになるかもしれません。
また、門脇氏は日本人の糖尿病になりやすい体質の解明にも取り組まれ、肥満になりやすい、あるいはインスリン抵抗性になりやすい体質に関わる研究も進められています。今後の研究のさらなる進展が期待されます。