LF対談

アクチビンによる分化誘導は
今になってみれば 再生医療の走りでしたね No.72(2014.6)

独立行政法人 産業技術総合研究所 幹細胞工学研究センター長
浅島 誠 氏

公益財団法人 千里ライフサイエンス振興財団
岸本忠三 理事長

佐渡島ではいつも生物が身の周りにいた

岸本 今、iPS細胞という新しい万能細胞が脚光を浴びていますけど、それは分化した細胞が元に戻るということですね。それに対して、浅島先生がずっとやってこられたのは、一番元の白紙のような胚の未分化細胞がいろんな細胞に分化していく道筋で最初に影響を及ぼす分子、アクチビンの研究で、ちょうど逆向きというか。

浅島 そうですね。

岸本 それで、僕がいつも思うのは何でイモリなんですか(笑)。

浅島 シュペーマンとマンゴルドが1924年に初期胚にオーガナイザー(形成体)という形づくりのセンターを見つけますけど、その頃に発生過程の研究で一番よく使われていた実験動物がイモリなんです。イモリの胚の原口背唇部に形づくりのセンターがあって、そこから形ができるんだと。そうしたら、世界中の人が「じゃあ、そこにある物質を探そう」とものすごい勢いで研究しだしまして、日本でオーガナイザーの誘導物質を探す研究を一番よくやったのは名古屋大学と東京大学でした。

岸本 何でイモリでやるんですか。

浅島 イモリは卵が大きく、直径が1.5mmあります。

岸本 カエルよりも…。

浅島 大きいですね。それで手術がしやすいんですよ。カエルは直径が1.2~0.8mmぐらいの大きさで、ちょっとベタベタするんです。それから、受精した瞬間から形ができるまで顕微鏡の下でずっと見ることができる。哺乳動物の場合は子宮の中で育ちますから、最初のところがわからないですよね。

岸本 先生は佐渡島のお生まれなんですね。イモリは佐渡島に多いんですか。

浅島 いや、イモリよりもむしろヒキガエルとか、カエルが多いですね。春になると池の周りにカエルが集まってきて、もう池は卵だらけになります。それを毎日見に行くと、1日ごとに変化していて、孵化するときも一斉に飛び出してくる。非常に不思議に思いましたね。僕にとって卵の不思議さは基本的に身の周りにありました。

岸本 それが源流ですか、発生の研究につながっていく?

浅島 もう1つはトキで、中学生のときにもう佐渡にしかいなかったトキを見に行ったんですよ。明け方だったんですけど、松原の向こうを飛んでいくトキの姿っていうのは、本当にきれいでした。トキという種が生き残るためには何羽必要なんだろうとか、種(species)というものに興味を持ちまして、それが学問をしようと思うきっかけにもなりましたね。それから、僕は昆虫少年で、昆虫っていうのはこんなに種類があって行動が違うのはなぜだろうと思っていました。ですから、生物というのがいつも自分の身の周りにいて、それがやっぱり生物学に進んだ最大の理由ですね。

岸本 実際に発生の研究に進もうと思われたのは、大学を出てからですか。

浅島 実は僕は高校の先生になろうと思っていたんです。ところが、教育実習をやっているときに、僕がやりすぎたのかもしれませんけど、「先生は面白いかもしれないけど、もっと受験勉強に役立つことを教えてください」と言われました(笑)。本当にショックでした。いろいろ悩みまして、その頃に神田の古本屋に行ったら、シュペーマンの生涯が書かれた本があって、読んでみると、「本当にやりたかったのは、こういうことだ」と。大学院に行って、これを突き詰めてみようと思ったんです。ただ、もう40年以上経っているので解決しているのかなとも思いましたけど、どうやらそうではないらしい。それで「やってみよう」と大学院に進みました。

アクチビンは一番最初の引き金の分子

岸本 それで80年代にアクチビンに到達される。僕も同じことで、IL6の研究は免疫の抗体ができるにはどういう分子が作用するのかということから始まりました。ドイツへ行って、誘導物質の研究をやられたわけですね。

浅島 はい。僕が大学院を出る頃には、日本ではもうほとんど誘導物質を探す人がいなくなって、世界中を見回したら、ドイツのティーデマン先生だけがやっていました。だけど、ニワトリの胚から誘導物質を探していたけど、なかなか見つからなくて。僕が行ったときは最後の段階に近かったんですけど、構造が決まらないんですよ。

岸本 対象はイモリの卵でしょ?

浅島 はい。

岸本 ニワトリの胚から採ってくるとか、その当時から種を超えてという概念はあったわけですか。

浅島 いや、それはなくて。僕らがニワトリの胚から採ったものをイモリにやって筋肉とかに誘導したときにも、アーティファクト(人工的)というか、本物じゃないんじゃないかと。

岸本 みんな、そう思いますよね(笑)。

浅島 イモリから採った研究もやったんです。だけど、卵って卵黄が邪魔して精製できない。それで懲りちゃって、やっぱり活性のあるものから採るしかないと。それでフナのウキブクロをやっていたら、フナの大きさとか、季節によって活性が違う。なんとか常に活性が出るような方法はないか。そのとき「そうだ、ヒトの細胞を使えばいい」と。ヒトの細胞なら培養できるし、データもかなり揃っているので、これを使うしかないと思って。

岸本 ヒトの白血病の細胞株ですね。アクチビンはそこから出たわけですね。

浅島 はい。ただ、最後の段階の精製で活性がなくなったんですよ。だけど、ティーデマン先生のところでも最後に活性がなくなったことを思い出してね。見つけられないだけだと。

岸本 引っついていたんですね、どこかに。

浅島 ガラスの底にくっついてしまうと、もう離れない。その性質が最初はわからなかったんです。

岸本 アクチビンの構造はタンパク質の精製からいかれたんですか。

浅島 そうです。88年に見つけたんですけど、追試するのに1年間かかりました。そして、89年の国際会議で初めて発表しました。

岸本 競争はなかったんですか。

浅島 80年代の前半まではまったくなかったですね。そんなものあるわけがないと。よく言われたのは、磁場とかでね、それはつかまえようがないと。日本でも、「何で今さらやるのか」とよく言われました。そんなときにアメリカの科学アカデミーに呼ばれたんですよ。そうしたら、エーデルマンとかノーベル賞学者を含めたその分野の人たちが前のほうに座って、誘導物質についてやっている。もうこれは急がなきゃならないと思いました。

岸本 アクチビンという名前は、先生が付けられたんですか。

浅島 いえ、濾胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進する因子として、先に名付けられていました。本当は別の名前を付けようかと思ったんですけどね。

岸本 で、アクチビンは胚の分化誘導においてどんな役割を果たしているんですか。

浅島 今はアクチビンによってオーガナイザーの分子、それを全部活性化できることがわかっています。今、30ぐらい遺伝子が調べられていますけど、それを全部活性化することができる。アクチビンは卵形成の間に卵の中にたくさん蓄えられているんですけど、まあ言えば、一番最初の引き金の分子だと考えてもいいかなと思っています。

岸本 ヒトやマウスでもそうですか。

浅島 マウスでは言えますね。ヒトでもたぶん大きな役割を果たしていると思いますけど、やっぱりヒトは複雑なので、それを証明するにはまだまだ時間がかかると思います。

浅島  誠 氏

浅島 誠 氏

独立行政法人 産業技術総合研究所 幹細胞工学研究センター長

1944年、新潟県生まれ。67年東京教育大学理学部卒業。72年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了後、ドイツ・ベルリン自由大学分子生物学研究所研究員。74年 横浜市立大学理学部助教授、85年教授。93年東京大学教養学部教授、96年大学院総合文化研究科教授、03年総合文化研究科長、教養学部長、07年副学長、理事、特任教授。09年産業技術総合研究所フェロー、幹細胞工学研究センター長。11年(独)日本学術振興会理事。日本学術会議副会長などを歴任。専門分野は発生生物学、器官形成学。胚発生におけるオーガナイザー(形成体)の誘導物質としてアクチビンを発見。アクチビンの濃度の変化によって様々な器官の分化誘導にも成功する。受賞は、日本動物学会賞、井上学術賞、ジーボルト賞、木原記念学術賞、東レ科学技術賞、内藤記念学術賞、持田記念医学薬学学術賞、バイオインダストリー協会賞、日本学士院賞・恩賜賞、紫綬褒章、上原賞、エルビン・シュタイン賞、文化功労者。

アクチビンでいろんな臓器を作ることができる

岸本 先生の研究で、アクチビンは濃度を変えると何を作らせるか、違うこともわかったわけですね。

浅島 はい。カエルの胚のアニマルキャップっていう未分化細胞でやったんですけど、低い濃度では血球ができて、それから筋肉になる。だけど、一番作りたかったのは脊索なんです。なぜ作りたかったかというと、それがオーガナイザーそのものなんですよ。それを単一のタンパク質で胚の未分化細胞から作りたい。それが元でしたから。それを作って、さらに濃度を高くすると心臓ができたり、肝臓ができたり、いろんなものができてきました。さらにビタミンAの誘導体であるレチノイン酸を加えると腎臓ができたり、膵臓ができたりと、いろんな臓器を20近く作りました。

岸本 濃度を変えると違うものができるっていうのは、受容体が違うわけですか。

浅島 そうです。濃度が低いときにはアフィニティ(親和性)の高いのが反応する。濃度を高くするとアフィニティの低いのが反応して、細胞内の情報伝達も違うところにいく。

岸本 そうすると、遺伝子の発現も。

浅島 たとえば、筋肉ができるときには、筋肉ができる道筋の遺伝子が規則正しく出てきます。心臓について我々は新しい遺伝子もいくつも採りました。で、カエルから採った遺伝子がマウスやヒトにもあるとか、いろいろわかってきまして。

岸本 イモリもカエルも人間も変わらんということですか。

浅島 変わらんですね(笑)。実際の体の中ではいろんなシグナルが入って、そうしたネットワークを使って筋肉を作る。アクチビンというのはそれを単純化したわけですけど、出てくる遺伝子は基本的には同じだったということですね。

岸本 そういうふうにして未分化細胞からいろいろな細胞ができてくる。今は、ES細胞やiPS細胞から分化した細胞を作るというのが流行りになっていますけど。

浅島 そうですね。

岸本 先生はイモリやカエルのシステムで、それを最初にやっておられたということですね。

浅島 最初は再生医療なんていうのは考えていなかったけど、アクチビンによる分化誘導は今になってみればそういうものの走りでしたね(笑)。アクチビンで皆さん、分化誘導をどれぐらいやっているか調べてみると、アクチビンを使った論文数がウナギ登りで上がっているんです。マウスとかヒトでも効くことがわかったので、未分化の細胞を筋肉とか心臓に持っていくための最初の引き金は、皆さんアクチビンをほとんど使っていますね、世界中で。

岸本 それでiPS細胞とか、元に戻るというのは、結局その逆ですよね。

浅島 そうです。ただ、僕も今、iPS細胞を使っていますけど、見かけ上は戻ったように見えても、ある面で前の記憶が残っているんですね。

岸本 前の痕跡が残っていると。リンパ球はそれがはっきりしていますね。遺伝子が再構成したのは、そのまま残っている。だから、何から戻したかによって、何を作りやすいかは決まりますかね。

浅島 はい。大きく分けて、神経とか皮膚になる外胚葉系のもの、筋肉や腎臓になる中胚葉系のもの、肝臓や消化管になるような内胚葉系のもの、大元はやっぱり残りますね。その細胞はどういう性質を持っているか、なりやすいほうに持っていくことが重要だと思いますね。

岸本 iPS細胞にアクチビンを使ったら、ちゃんと分化しますか。

浅島 しますけど、今、お話ししたようになりやすいものと、なりにくいものがあります。

岸本 そう簡単には治療に使えるようにはならないということですかね。

浅島 そうですね、基礎的なところをがっちり固めないと。本当に治療に使おうと思うなら、大人になっても未分化細胞は我々の体の中にあるので、そちらを使う方法もあるんじゃないかと。無理やり戻したものをまた分化させるっていうよりも。

岸本 イモリも人間も変わらんという。だけど、イモリは肢を切ったら、また生えてきますよね。人間ではそうはいかない。どこが違うんですかね。

浅島 イモリは、切ったところが脱分化するんですよ。筋肉とか1回分化した細胞が未分化みたいになる。人間の場合、手を切ると出血しますよね。早く固めてしまわないといけない、組織を。これをうまく固めてしまうから、中から伸びようとしても伸びられない。

岸本 脱分化できればいいわけですね。

浅島 固い組織が覆ってしまった後ではもうダメなんですよ。

岸本 覆う前に脱分化できれば人間でも。

浅島 可能性はある。イモリに学べばね(笑)。人間でも羊水に入っている胎児の指を切っても再生すると言われていますから、我々もまったくないわけじゃない。イモリはすごいですよ。冬眠している間に、がんだって治すんですから。

岸本 消えるということですか。

浅島 秋に採りに行くと、体の皮膚などががんだらけのものが結構見つかる。それが春に行くと、まったくいない。今でいう低温療法ですよ。冬眠している間に、がんの大元のところに血流が流れないようにして、ポキンと切り取ってしまう。そういうものを見つけると、イモリに学んだほうがいいんじゃないかと思いますね。

 

自然に触れて、生物学をやっていてよかったと感動する学生は伸びる

岸本 先生は今、学術振興会の役員をされていますよね。研究費の配分が、流行りの分野にばかり集中するとか、どう思われますか。

浅島 今は何というか出口志向ばっかりで、「これは、どう役立ちますか」とまず先に言いますよね。僕はそうじゃなくて、基礎研究をきちっとしていないと広がりはないと思います。僕のいる学術振興会は大型の研究費を配分するようなところとはちょっと違って、基礎研究や若手の研究を支援する、ある面ではいろいろな学問の土台を支えているような機関です。ただし、今は大学が弱ってきて学術振興会に対する研究費(科研費)の応募がどんどん増えていますね。僕はみんなにあげたいと思うけれど、なかなか。

岸本 2割ぐらいの採択ですかね、今は。

浅島 若手には3割ですけど、大きなお金になるほど競争が激しくなる。そういう人たちにはもっとお金のあるところへ行ってもらうとかしなきゃいけないけど、日本の研究費の配分の仕方が、今は出口だけ志向しているので。

岸本 そうですね。

浅島 このままでは、すぐ先が見えちゃいますよ。もっともっと研究分野の裾野を広げておかないと、次の玉が出ませんよ。

岸本 やっぱり先生のイモリの卵からスタートしているようなものとか(笑)、今でもそういうのがあるはずですよね。

浅島 そうですね。

岸本 先生は今でもご自分でイモリを採りに行かれるんですか。

浅島 はい。毎年、2回は行っています。学生たちには「先生、何でこんな辛い思いをして、イモリを採りに行くんですか」と言われます。彼らの網の中を見ると、ゲンゴロウやタガメがいる。彼らはタガメなんて見たことない。すると、「先生、これ教科書に出ているタガメと同じですね」と。僕は「違う。教科書のほうがこれと同じなんだ」と。

岸本 どっちが先か(笑)。

浅島 彼らは初めて自然に触れるわけです。前に、ある学生がずっと野生のメダカを見ていたんです。「先生、メダカの学校っていうけど、どれが生徒ですか」って言うから、「そんなのは自分で調べろ」と。そうしたら、次に行ったときは画像に撮って、いろんな動き方を見ているわけです。そういう学生は伸びますね。自然に出て、いろんな自然の面白さに触れると、「本当に生物学をやっていてよかった」と思うはずなんです。そういう感動を持てるような学生が伸びると思います。

岸本 そうでしょうね。今日は、どうもありがとうございました。

 

EYES

イモリやカエルの発生過程で 体づくりに重要な働きをする誘導物質を探せ

両生類の中胚葉を誘導する物質としてアクチビンを発見。                              アクチビンによって様々な組織、臓器の分化誘導も進める

1つの受精卵から始まり、成体になるまでの発生過程において、ヒトも含めた多細胞動物の複雑な体の構造はどのように形づくられるのか――。その謎に最初に光を投げかけたのは、ドイツのシュペーマンとマンゴルドでした。1924年、2人は受精後のイモリの初期胚に、頭部を作らせる働きのある領域があることを見つけ、その領域は形づくりのセンターとして「オーガナイザー」(形成体)と呼ばれるようになりました(イモリはカエルと同じ両生類で、オーガナイザーは両生類での呼称。他の動物種の胚にも同じ働きをする領域がある)。

2人の実験は、次のようなものでした。イモリの原腸胚の一部の領域(原口背唇部)の細胞塊を切り出し、他のイモリの胚の反対側の領域に移植します。すると、移植を受けた胚は頭が2つあるオタマジャクシになりました。切り出した細胞塊をそのまま培養しても頭にはなりませんでした。ということは、移植した細胞塊が周りの領域に働いて、頭を作らせたことになります。こうした頭部、つまりは中枢神経系を作り出す働きは「神経誘導」と呼ばれ、この神経誘導をきっかけとして以後の体づくりが連鎖的に進むことから、その領域は形づくりのセンターと考えられるようになったのです。では、神経誘導には実際、どんな物質が働いているのか、さらには神経誘導を行うオーガナイザーを作り出す物質(オーガナイザーが含まれる中胚葉の誘導に働く物質)は何か、そうした誘導物質を探す試みがスタートしました。そして、オーガナイザーの発見から60年以上経た1989年、オーガナイザーを含めた中胚葉誘導に働くタンパク質としてアクチビンを世界に先駆けて発表されたのが、浅島誠氏(産業技術総合研究所幹細胞工学研究センター長)です。

浅島氏は東京大学大学院修了後、かねてからの夢だった誘導物質探索のため、72年にドイツのベルリン自由大学のティーデマン教授の許に留学。そこで、イモリの胚の中胚葉誘導に働く物質を突き止める研究に着手されます。帰国後も、その研究は続けられ、イモリやカエルの胚の中胚葉誘導に活性のあるニワトリの胚やフナのウキブクロの抽出物から活性のある単一の物質を精製することに尽力されました。しかし、当時の技術では難しく成功しませんでした。転機となったのは、80年代半ばに哺乳類の培養細胞に着目されたことです。その培養上清(上澄み液)に強い活性のあるものが見つかりました。そこから精製されたのがアクチビンでした。アクチビンはTGF-βファミリーという細胞増殖因子の一群に属し、卵母細胞を取り巻く濾胞細胞に働くホルモン(FSH)の分泌を促す因子として発見されていました。

カエルの胚の誘導実験の1つに「アニマルキャップ検定」という方法があります。アニマルキャップは、胚の動物極側の帽子を意味し、未分化細胞の塊です。これは原腸胚の前にあたる胞胚期の将来、外胚葉を経て神経と表皮になる領域の細胞塊で、胞胚期に切り出すと未分化細胞として扱えます。このアニマルキャップに候補物質を作用させてその誘導活性を調べるのですが、アクチビンを作用させると低い濃度では血球などができ、それを濃くすると筋肉など、さらに濃くすると脊索というように、濃度によって様々な中胚葉系の細胞、組織に分化誘導することができました。実は、87年にイギリスのグループによって中胚葉の誘導物質として、やはり哺乳類のFGF(繊維芽細胞増殖因子)が報告されていました。しかし、FGFは脊索を誘導することはできませんでした。脊索こそ、オーガナイザーの領域にできる組織です。アクチビンは、世界で初めて報告されたオーガナイザーを含めた中胚葉すべてを誘導できる物質でした。

その後、アクチビンは両生類でも作られ、卵母細胞に蓄えられて受精後の中胚葉誘導に実際に関わっていることもわかりました。他のTGF-βファミリーのタンパク質やFGFと共同して働いているのではないかと考えられています。しかし、オーガナイザーについては、やはりアクチビンが非常に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあります。さらにアクチビンは、ヒトやマウスの発生過程に関与していることもわかってきました。

アクチビンの中胚葉誘導の活性を調べるために始められたアニマルキャップを用いた誘導実験ですが、浅島氏はアクチビンの濃度を変えることによって、心臓や肝臓、さらにはビタミンAの誘導体であるレチノイン酸とアクチビンで腎臓や膵臓といった臓器への分化誘導にも成功されます。これは、現在の再生医療にもつながる技術の開発になりました。再生医療では、iPS細胞(人工多能性幹細胞)などから特定の臓器や組織を分化誘導することが必要だからです。浅島氏も、ヒトやマウスのiPS細胞などを使ってアクチビンの有効性を確かめられ、アクチビンは今では世界的にも広く使われ始めているといいます。今後のアクチビンによる発生過程の研究の進展、さらには再生医療への貢献が期待されます。

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