LF対談
マクロファージは異物を食べる細胞ですが、
樹状細胞は抗原提示のために動いていく細胞です。 No.75(2015.6)
京都大学副学長・大学院生命科学研究科 教授
稲葉カヨ 氏
公益財団法人 千里ライフサイエンス振興財団
岸本忠三 理事長
ロレアル-ユネスコ女性科学賞受賞と共同研究者のノーベル賞受賞
岸本 稲葉先生は2014年に、「ロレアル–ユネスコ女性科学賞」を受賞されましたね。樹状細胞の役割を解明したことなどがご受賞理由と聞きます。この賞は女性科学者を表彰するものでは世界最高とのことですね。
稲葉 ええ。生命科学と物理科学から隔年で、5大陸から1人ずつ選ばれています。免疫の分野の研究者に受賞者が多いですが、他にも脳科学やバイオインフォマティクスの研究者なども選ばれていて、受賞者の研究分野はさまざまですよ。
岸本 それと、2011年には、稲葉先生が長年、共同研究をされてきたラルフ・スタインマン先生がノーベル賞を受賞されました。「樹状細胞と、獲得免疫におけるその役割の発見」という受賞理由でした。けれども、発表3日前にがんで亡くなられたとのことで、稲葉先生も大変だったでしょう。
稲葉 そうですね。授賞式に共同研究者の一人として出席しました。彼の家族が、私たち共同研究者の何人かを受賞式に招待してくれたのです。
岸本 ノーベル賞における免疫の研究では、ロシアのメチニコフはマクロファージの発見により、ドイツのエールリヒは抗原抗体の特異性を明らかにしたことにより、1908年にノーベル賞を受賞していますね。でも、T細胞やB細胞の研究での受賞はまだない。そんな中、樹状細胞の研究がノーベル賞の対象になりました。どう思われましたか。
稲葉 スタインマンの樹状細胞の研究は獲得免疫の分野でしたが、同時に受賞したアメリカのボイトラーとフランスのホフマンの研究対象は自然免疫のほうでした。1908年のときもそうでしたが、自然免疫と獲得免疫の研究をつなぐことが重視されたのかもしれません。免疫応答が実際どう起きるかを明らかにした3人に贈られたのはふさわしいことと思います。
樹状細胞こそが抗原提示の主役
岸本 もともと稲葉先生は奈良女子大学を卒業されたんですよね。教育職に進む方が多いのかと思いますが、先生は京都大学の大学院に進んで研究職に進まれました。どうして研究者になろうと?
稲葉 私自身、教師というイメージがあまりなかったのと、このまま就職してなにか足りないかなと思ったのとですね。当時の奈良女子大学には、修士課程までしかなかったので、博士課程まである京都大学の大学院を受けたんです。
でもじつは、まったくちがう方向にも魅力を感じていて。法学部の学士入学も考えたんですよ。
岸本 法学部ですか。弁護士になろうと?
稲葉 そうなんです。でも結局、欠員がなくて学士入学試験が実施されず、京都大学大学院の理学研究科へ進んだんです。
岸本 奈良女子大学時代は植物を学ばれていたけれど、京都大学では研究対象が動物の細胞に変わったのですよね。
稲葉 はい。大学のときは、フィールドワークでなく実験が中心で、酵母を使った実験していたのですが、細胞壁があって「扱いにくいな」と思っていたんですね。「動物細胞のほうが培養もしやすいし、おもしろそう」と思って、動物細胞に変えました。
岸本 当時の京都大学の様子は?
稲葉 奈良女子大学の2年生だった1971年に、京都大学へ行っていろいろな研究室を見せてもらいましたが、「女の人が研究するのはむずかしいよ」とか「うちは女性は採ったことないな」とか言われました。
そんな中、奈良女子大学の集中講義に、京都大学から村松繁先生が教えに来られていたんです。京大の学生の優秀さなどもお話されていて。そんなことで村松先生を知っていたので、大学院を受けてみたんです。
岸本 村松先生が研究されていたのは、免疫細胞の中でもマクロファージですから、稲葉先生もマクロファージのご研究を始められたんですよね。どのようなご研究を?
稲葉 助手になったときの研究テーマはマクロファージの抗原提示能の解明でした。プラスティックの実験皿がまだ高価で、ガラスの皿で実験をしていましたが、なかなかうまく行かなくて。それで、培養方法を変えたりして続けていると、脾臓の培養細胞に抗原を加えると、B細胞による抗体産生応答も誘導できるようになったんです。
ところが、リンパ球を精製して付着性細胞を除き、マクロファージと混ぜて培養すると、あるときは応答がよく出るけれど、あるときは出ない。とても不安定だったんですね。この時点で1979年。助手になって1年が経とうとしていました。
そんなとき、たまたま「脾臓でマクロファージとは異なる新たな細胞を発見した」というスタインマンの1973年発表の論文を見つけたんです。論文はシリーズになっていて、1978年発表のものでは、新たな細胞の比率を高めれば、強いT細胞活性化が誘導されると報告していたんです。
それで、私の扱っている細胞についても、マクロファージと称している付着性の細胞のなかに、 “新たな細胞”が含まれているのではないかと思うようになったのです。
岸本 それが樹状細胞だったわけですね。
稲葉 はい。樹状細胞の存在を確認するため実験をしました。その結果、マクロファージとは異なる、この“新たな細胞”から、抗原提示の応答が出てくることがわかりました。
岸本 スタインマン先生のシリーズ最初の論文を出された頃は、まだだれもが「マクロファージこそが抗原提示細胞の主役だ」と考えていたのですよね。
稲葉 そうです。
岸本 それで、スタインマン先生は、マクロファージとは異なる、樹状細胞という細胞があることは報告したけれども、その細胞が抗原提示細胞であるということまでは報告していませんでしたよね。
稲葉 ええ。私も、日本で研究をしていたときは「樹状細胞が少しあることが必要だ」というぐらいしか言えませんでした。
それで1981年の暮れに、東京の経団連会館で内藤記念科学振興財団が“Self-Defence Mechanisms”と題する国際シンポジウムを開催し、そこにスタインマンや、彼の師だったザンビル・コーンたちがニューヨークのロックフェラー大学から来たんです。村松先生が、私のそれまでの研究成果を発表してくださって。レセプションのとき、コーンが私に「機会があれば、スタインマンと共同研究をしたらどうか」と言ってくれたんです。村松先生にも了解をいただき、翌1982年、渡米しました。
岸本 その後、ロックフェラー大学で樹状細胞が抗原を提示する細胞であることを解明する研究をされた。
稲葉 はい。いまお話したシンポジウムでも、スタインマンたちに「樹状細胞は抗原提示細胞なのか」と聞いたんです。すると彼は「私は細胞生物学者で、免疫学者じゃないから」と言って、はぐらかされた感じでした。後にアメリカの研究仲間から話を聞くと、スタインマンたちも同様の研究に取り組んでいたもののうまく行かず、私が研究しているのを聞いて、師匠のコーンが私に声をかけたのではということでした。
岸本 樹状細胞が抗原提示に重要であるという発見については、稲葉先生の役割のほうが大きかったといえますよね。
稲葉 まあ、そういえるのかもしれません。
マクロファージは局所にとどまり食作用を示すが、
樹状細胞は取り込んだ抗原をリンパ節まで持って行く
岸本 抗原提示のしかたは、マクロファージも樹状細胞も同じようなものですか。
稲葉 はい。同じです。でも、その作用はマクロファージのほうがはるかに弱く、樹状細胞のほうが強いのです。
T細胞に対する抗原提示のしかたを見てみると、樹状細胞のほうでは、1日のうちに細胞表面のMHCクラスⅡの分子数が急激に上がり、食作用が下がります。細胞表面に出たものは安定に長い間とどまります。
岸本 どうして樹状細胞のほうがマクロファージよりも抗原提示作用が大きくなるんですか。
稲葉 補助刺激分子の発現量のちがいです。マクロファージは樹状細胞とちがって、補助刺激分子の発現が低いんです。
マクロファージはどちらかというと、食作用のほうが主な役割といえます。マクロファージは樹状細胞とちがって、局所にとどまって動きませんし。
岸本 マクロファージは動かない。樹状細胞は動く。そのちがいもあるんですね。
稲葉 ええ。たとえば私たちがケガをすると、マクロファージはその場で異物を食べます。一方の樹状細胞は、その炎症部位で、自分が取り込んだ抗原をリンパ節まで持って行きます。
岸本 ああ、なるほど。
稲葉 リンパ節へ行くと、樹状細胞はそこでT細胞を呼びよせるような物質をつくります。そしてT細胞と樹状細胞が相互作用して、特異的な細胞だけを増やしていきます。増えた特異的な細胞は、もとの炎症部位へ移動し、そこで抗原を認識してサイトカインなどをつくり、最終的に異物を除くということになります。
稲葉カヨ 氏
京都大学副学長・大学院生命科学研究科 教授
1950年、岐阜県生まれ。73年、奈良女子大学理学部生物学科植物学専攻卒業後、京都大学大学院理学研究科動物学専攻に入学。78年、同博士課程修了(理学博士)。京都大学理学部研修員、助手。途中82〜84年には米国ロックフェラー大学に留学。92年、京都大学理学部助教授。95年、同大学院理学研究科助教授。99年、大学院生命科学研究科教授。2003〜05年まで研究科長を務める。06年〜14年には、京都大学女性研究者支援センター・センター長を務め、女性研究者の活躍を推進。13年からは、京都大学副学長に就任し、男女共同参画を担当(14年から理事・副学長として国際・広報担当も務める)。14年、京都大学男女共同参画センター長にも就任。ラルフ・スタインマン博士との共同研究では、マウス樹状細胞の試験管内での誘導培養法の開発に成功。また、試験管内での樹状細胞の増殖分化誘導系の確立にも成功。受賞は、Outstanding Merit Award of International Immunology、ロレアル-ユネスコ女性科学賞、京都大学孜孜賞、京都府あけぼの賞、日本免疫学会女性免疫研究者賞など。
樹状細胞の培養・増殖にも成功
岸本 稲葉先生は、樹状細胞を培養で増やす方法もスタインマン先生と確立されたのですよね。
稲葉 はい。脾臓から採ってくるだけでは少ないので、多くを採りたいという願いがあったんです。
まず、骨髄のなかに樹状細胞の前駆細胞があるから、それを増やせばいいと考えました。当時、骨髄細胞をコンカナバリンAというレクチンで刺激した培養上清を使えば樹状細胞を増やせるという論文が出ていたので、私も試したのですが、うまくいきませんでした。別の細胞をきれいに除けないこともあって、諦めかけていたんです。
でも、「骨髄に樹状細胞の前駆細胞があるのなら、末梢血の中にも前駆細胞はあるのではないか」と考えはじめたんです。末梢血であれば、GM-CSFを加えても、好中球が物凄く増えて来るわけでもなく死滅するので、樹状細胞を増やすことができそうでした。それで、その後にマクロファージ様の付着細胞と一緒にもこもこと増えてくるものがあったので「樹状細胞かな」と思って調べてみると、やはり樹状細胞だったのです。
岸本 樹状細胞を増やす研究もロックフェラー大学でされたのですか。
稲葉 日本に戻ってきてからの研究です。でも、夏、冬、春の休みの期間にはアメリカに行きました。日本で実験の方向性を決める予備実験をして、アメリカでやりたい実験の内容をロックフェラー大学に事前連絡して、現地に到着した日から実験ができるようにしたのです。
岸本 アメリカのほうが研究を進めやすかったということですか。
稲葉 進めやすかったですね。ものが潤沢だし、研究に没頭できる環境もありました。
岸本 ニューヨークの生活も楽しんで?
稲葉 いえ、ただもう実験していただけです(笑)。実験がおもしろかったですから。なにかを試すたびに結果が出てきて、それを確かめられるというのが。
樹状細胞療法の真の効果はまだわからない
岸本 樹状細胞を使ったがん治療は「樹状細胞療法」というのですね。スタインマン先生もご闘病では、この療法をご自身で試したと聞きます。どういったものですか。
稲葉 in vitro で誘導した樹状細胞に癌抗原を提示できるようにして、ワクチンとして投与することで、ヘルパーT細胞などにがん抗原を認識させます。これで特異的な免疫反応を誘導するわけです。
ただし、樹状細胞にはサブセットが複数あって、食作用や抗原提示能など、機能がずいぶん異なるようなのです。樹状細胞には大きく2つのサブセットがありますが、細胞療法で使用するのは単球由来の樹状細胞です。しかし、樹状細胞に対する活性化の仕方やタイミングで、細胞性免疫応答を誘導するヘルパーT細胞を活性化させるのに必要なインターロイキン12の産生能などに大きなちがいがあります。産生能があまり高くない樹状細胞は、本当にキラーT細胞をつくらせることができるのかといった問題はあると思います。
スタインマンも、樹状細胞療法を自らで試していました。けれども、2度ほど治療を試した段階で、「ヘルパーT細胞は多くできるのに、キラーT細胞が出ないんだ」という話をしていました。彼は樹状細胞療法の他に、制御性T細胞を除去する抗CTLA-4療法も併用していました。最終的には、彼のがん抗原に特異的と思われるキラーT細胞が、10%を超えて出ていたのです。
けれども、最終的には肺にがんの転移があって、亡くなりました。「特異的なキラーT細胞が出ても、厳しかったのだろう」という私たちの間の結論になりました。
岸本 それでも、スタインマン先生は最初に膵臓がんを手術してから4年半ほど生き延びられ、比較的お元気でいらっしゃったとも聞きます。樹状細胞療法は少し効いていたとは思いますか。
稲葉 効いていたと思います。ただし、どれだけ効いていたのかはわかりません。樹状細胞療法より前から化学療法をしていましたし、さらに抗CTLA-4療法もしていました。それらの効果が相まって4年半、生き延びたのかもしれません。いまは、そうした治療をした人がほかに見当たらないので、樹状細胞療法が効いたのかどうかは、まだわからないのです。
女性研究者の先駆けとして……
能力を発揮できる環境が大切
岸本 いま、稲葉先生は京都大学で副学長をされていて、国際や広報とともに、男女共同参画の担当をされておられますね。先生が大学院に入られたころは、女性の学生の比率は低かったと聞きましたが、いまはどのくらいなんでしょう?
稲葉 たとえば、京都大学の大学院の生命科学研究科では、女性の比率が40%を超えています。生物系ではとても増えていますね。物理や数学などではまだまだですが。
岸本 大阪大学では、医学部に女性の教授がいません。京都大学ではいかがですか。
稲葉 臨床系に2人、女性の教授はいます。基礎の分野ではまだいませんね。
岸本 学生の段階では女子医学部生もそれなりにいると思うのですが、途中でやめてしまうのですか。
稲葉 もともと女性研究者がほとんどいなかったので、いま女性の教授が少ないのはしかたない側面もあると思います。裾野は広がってきているので、助教クラスで女性の割合が増えていけば、10年後やその先には女性の教授も増えてくると思っています。
岸本 そうですか。
稲葉 全国の国立大学の医学部でいうと、女性の教授の割合は4%ほど。助教では20%ほどです。医学部を卒業して、医学士(MD)の学位を得る人は30%を超えています。医学士と助教の間には10%の差がありますが、助教になるまで10年ほどかかりますし、少しずつ女性の比率は増えていくと思っています。
岸本 数学や物理で突出した女性の研究者というのは歴史的に少ないけれど、芸術や文学などでは数多く活躍されています。脳の働きは男女でちがうのかどうか……。
稲葉 若干ちがうのは事実です。けれども、PISA(学習到達度調査)などの試験の世界平均を見ると、大きな差はないというのが事実なんです。「勉強する必要ない」と言われれば、子どもは勉強しませんよね。でも、「勉強がんばってるね」と励まされたら、自分がおもしろいと思える分野は伸ばせると思います。もっている能力をどう発揮するか。そして発揮できる環境が揃っているか。これらが問われていると思います。
「女の子を理系に進ませるには」といった座談会に出たこともあるんですよ。
岸本 「リケジョ」っていうのですね。
稲葉 女の子は母親との関わりが強くなりますが、母親が文系出身という家族が多いです。そういう状況で女の子が理系に進む可能性は低いと思います。だからお父さんもお子さんの進路に関わってほしいですね。親の方には「お子さんがどんなことをおもしろいと思っているか考えて、そこをサポートしてあげてください」と言っています。
岸本 今日は、ありがとうございました。
EYES
樹状細胞は主要な抗原提示細胞
司令塔役のヘルパーT細胞に抗原を特異的に提示
樹状細胞は自然免疫の最前線にいて、獲得免疫へのつなぎ役
樹状細胞こそが抗原提示を担う主要な細胞であることを解明
ヒトなどの生体には、「疫病を免れる」ための「免疫系」が備わっています。免疫系では、「免疫細胞」とよばれるさまざまな細胞が働きます。ここでは、免疫系の全体像と、その中でも、今回の対談記事の主題となる「抗原提示細胞」の一つ「樹状細胞」を中心に見ていきます。
感染症は、ウイルスや細菌といった病原微生物が体内に侵入し、増殖することで起きます。また、がんという病気は、体内で細胞のDNA複製の異常や修復の失敗などが重なって細胞が異常増殖することで生じます。免疫系が攻撃をしかけるための標的とする物質を「抗原」といいます。
生体では、「生体防御」の機能が働いて、このような抗原を持つウイルスや細菌といった病原体の侵入を防いだり、増殖するがん細胞を叩いたりと、病気の悪化を食い止めようとします。
この生体防御の過程にある主要なしくみが「免疫」です。一口に免疫とはいいますが、大きく「自然免疫」と「獲得免疫」の二つに分けることができます。まず、病原微生物が体内に侵入しはじめると、ただちに病原体を攻撃します。これは「自然免疫」によるもの。自然免疫は、病原体の種類にお構いなく攻撃するしくみであり“応急処置的”といえます。
その後、生体は2週間ほどかけて、インフルエンザならインフルエンザ、風疹なら風疹といった個々の病原体に対して特異的に抵抗力をもつようになります。これは「獲得免疫」によるもの。一般的に、特定の感染症は「一度かかったら二度はかかりにくい」といわれますが、これは獲得免疫がその病原体に特異的な抵抗力を発揮するからです。獲得免疫は、特定の病原体に特化した“個別対応的”なしくみといえます。
「自然免疫」と「獲得免疫」。この二つのしくみそれぞれにおいて、さまざまな免疫細胞が働きます。自然免疫では、とにかく応急処置的に素早く生体を防御すべく、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、それに白血球の一種の好中球などの免疫細胞が、直接的に病原菌を攻撃します。
これに対して獲得免疫では、いったん“司令塔役”のヘルパーT細胞が、その抗原の特異性を把握します。そしてヘルパーT細胞は、キラーT細胞に「この抗原を攻撃せよ」と命じたり、B細胞に「この抗原に特異的に結合して防御するための抗体を生産せよ」と命じたりして、生体を防御しようとします。
では、指令塔役のヘルパーT細胞に、その病原体の特異的情報を知らせるのは何者なのか。ここで登場するのが「抗原提示細胞」です。抗原提示細胞は、病原体を取り込んで、司令塔役のヘルパーT細胞に、その抗原に由来する情報を提示する免疫細胞です。
当初、抗原提示細胞の主要な存在は、自然免疫でも活躍するマクロファージだと考えられてきました。しかし、今回の対談記事に登場する稲葉カヨ氏は、2011年にノーベル医学・生理学賞を受賞したラルフ・スタインマン氏とともに、マクロファージとは異なる「樹状細胞」という細胞こそが、抗原提示細胞の主要な存在であることを解明しました。稲葉氏は、樹状細胞の重要な役割を解明するとともに、樹状細胞を体外で「抗原」と処理し、再び体内に投与することで免疫反応を促すことができることを初めて実証し、新たな抗がん治療の確立にも貢献した業績から、2014年に世界の優れた女性研究者を表彰する「ロレアル-ユネスコ女性科学賞」を受賞してもいます。
樹状細胞は、樹枝状の突起を伸ばしたような形をしています。実際の抗原提示のしかたとしては、樹状細胞(などの抗原提示細胞)が取り込んだ物質を、「主要組織適合性抗原複合体(MHC:Major Histocompatibility Complex)という分子群に結合させて、それをリンパ節のヘルパーT細胞まで持っていき提示します。こうするためには、樹状細胞が活性化して「補助刺激分子」という分子を発現させていることも必要です。
樹状細胞にはサブセットがあり、同定された場所によって、表皮では「ランゲルハンス細胞」、胸腺の髄質やリンパ節の副皮質では「相互連結性嵌入細胞」、輸入リンパでは「ベール細胞」とよばれるなどして、名称が異なります。機能がわからないまま、それぞれ別の場所で形態の違いから見出されたものが、後になって、抗原提示機能に深く関わる相互に深い関連のある細胞であることがわかったのです。