LF対談
クライオ電子顕微鏡を使う研究者は 世界でも日本でもとても増えています No.92(2021.2)
東京医科歯科大学 特別栄誉教授/京都大学 名誉教授/CeSPIA 取締役
藤吉好則氏
公益財団法人 千里ライフサイエンス振興財団
岸本忠三 理事長
瞬時の凍結で損傷を抑えて試料を解析
岸本 藤吉先生は、タンパク質などの試料を凍結させて電子顕微鏡で観察する「クライオ電子顕微鏡」の開発に貢献され、またこれによりタンパク質の構造解析をされてきました。この凍結手法は、藤吉先生が初めて手がけられたのですか。
藤吉 私も早い時期から開発努力をしていましたが、試料を凍結させる方法をきちんとした形で開発したのはスイスのジャック・デュボシェでした。液体エタン中に試料を落下させ、秒速1万℃ほどで凍らせます。
岸本 ゆっくり凍らせると具合が悪いわけですね。
藤吉 ええ。刺身を凍らせてから溶かすと新鮮みがなくなるのとおなじです。あれは水がゆっくり凍ることで刺身のなかで結晶性の氷ができてしまい、細胞を壊しているのです。それで、エタンなどの熱容量が大きく融点と沸点の差が大きい液を使って急速に凍結すると、非晶質の氷に埋めて試料を壊すことなく固めることができます。
岸本 タンパク質などの高次構造を見る方法ではX線回折もありますよね。あれとはどうちがうのですか。
藤吉 X線回折では比較的大きな3次元結晶をつくる必要があるのですが、電子顕微鏡では厚さ5nmほどの薄い試料からでも構造解析ができるのです。それゆえ、膜タンパク質を脂質膜のなかにある状態で解析することができます。一般的にX線を使う場合は脂質膜を界面活性剤で除くのですが、電子線では脂質膜の中で2次元的に結晶化して構造解析するので、本来の状態に近い条件で構造が解けます。それゆえ、膜タンパク質の構造解析という点では電子顕微鏡に優位性がありました。
岸本 1986年にクライオ電子顕微鏡の第1号機を日本電子と産学連携で開発され、世界で初めて発売しました。その後ずっと改良を重ねてこられました。どんな進歩を遂げてきたのですか。
藤吉 第1号機は、私しか試料交換ができないくらい使いにくかったので、だれもが扱えるようにしました。ほかに、長い時間使えたり、高分解能のデータを撮影できるようにしたりしました。そのような改良を重ねて、「世代」が進んでいっています。理想に近いものになってきました。
水チャネルの構造解析と医療応用の取り組み
岸本 藤吉先生は、そもそもなぜX線回折でなく、電子顕微鏡で研究をしようと考えたのですか。
藤吉 私の興味は「ヒトの性格や能力を分子レベルで理解したい」というところにありまして、そのためには膜タンパク質の構造を解析しなければなりません。それゆえ、X線回折より電子顕微鏡のほうが向いているかもしれないと考えたわけです。
岸本 なるほど。はじめから試料を凍結させる方法をとっていたんですか。
藤吉 いえ。最初はクライオでない電子顕微鏡で有機分子を見ました。当時「電子顕微鏡で原子を見ることができるのか」という議論があったので、京都大学の博士課程の大学院生だった1978年に、塩化フタロシアニン銅の原子の像を撮影して分子構造が観えることを確認しました。そもそも膜タンパクの構造を見たかったので、構造を壊さないようにするには低温でということでクライオ電子顕微鏡を開発しました。
岸本 それで先生は、おつくりになったクライオ電子顕微鏡を使って、アセチルコリン受容体の構造を解析したり、細胞膜にあって水分子のみを選択的に通過させる水チャネル「アクアポリン」の構造を解析したりされたのですよね。
藤吉 はい。とくに水チャネルについては、ヒトの体の60〜70%は水ですし、細胞膜が水を透過させるしくみを、できれば構造からきちんと理解したいと思いました。
岸本 藤吉先生が構造解析されたアクアポリン-0やアクアポリン-1をはじめ、水チャネルには13種類があるそうですね。僕は、長らく研究対象にしてきたインターロイキン-6が、アクアポリン-4の抗体をつくる視神経脊髄炎に関わるということで、アクアポリン-4ぐらいは知っていたのですが……。
藤吉 水チャネルは個性的で、水しか通さないもの、グリセロールを通すもの、イオンチャネルとしてクロライドイオンを通すものもあります。なかでも、私が興味を持っているのは、岸本先生がいま言われたアクアポリン-4についてです。これは、速く水を通すチャネルで、お酒を飲むと脳での発現量が増えるのです。酔っぱらって転んで頭を打つと、脳浮腫を起こして突然死に至ることもあります。そこで、アクアポリン-4の水透過を阻害するアセタゾールアミドという有機化合物を同定しまして、マウスでは脳浮腫による死を抑えられたのですが、ヒトでは効かないという悲しい結果になりまして……。
岸本 マウスとヒトではチャネルの構造がちょっとちがうわけですか。
藤吉 そうなんです。2か所だけの違いで結合できなくなり、薬にできなくて「ごみ箱入り」となってしまったのです。そうした経験から「ドラッグレスキューイング」という創薬戦略を提案しています。「ごみ箱入り」した化合物と標的分子複合体の構造を解析すれば、薬理作用に重要な相互作用とそれに影響を与えない化合物部位がわかるので、そこを改変して副作用を低減するなどを試みて薬を作り切る戦略です。
タイトジャンクションの制御で薬を脳に届かせる
岸本 その後、先生は、イオンチャネルや細胞接着のメカニズムも、分子構造を解析することによって研究されたのですよね。
藤吉 はい、タイトジャンクションにおいて鍵となる分子「クローディン」の立体構造を解析して、細胞同士の強固な密着がどのようにできているかのモデルをつくることができました。一方で、薬を脳まで届かせるには、血液脳関門を制御することが必要という課題意識があり、そのためには血液脳関門にあるタイトジャンクションを崩壊させる必要があるわけです。そこで、クローディンを発見されるなど素晴らしいお仕事をされていた月田承一郎さん(京都大学医学研究科教授)と共同研究を始めましたが、残念ながら2005年にお亡くなりになり、いまは奥さまの早智子さん(大阪大学生命機能研究科教授)と引き続き共同して研究をしています。
岸本 そうですか。最近も成果を上げておられるのですね。
藤吉 はい。私たちの身体では27種類のクローディンが発現していますが、2014年にクローディン-15の立体構造をX線回折によって解析し、タイトジャンクションについてのモデルをつくることができました。
また、下痢をもたらすウェルシュ菌の毒素の一部分とクローディンの複合体の構造を解析し、タイトジャンクションが崩壊するモデルを提案しています。とくに、クローディン-5が重要で、クローディン-5を発現させなくすると、ビオチン化試薬が血液脳関門を超えて脳へ入ることが月田承一郎さんのご研究でわかっており、クローディン-5に結合してタイトジャンクションを制御する薬をつくれれば、血液脳関門を制御することができそうです。
岸本 そうですか。クローディンは27種類もあるとのことですが、やはりそれぞれに特徴があるんでしょうね。
藤吉 はい。たとえば、クローディン-15と10はそれぞれカチオンとアニオンを通すイオン選択性がありますし、クローディン-18は高いバリア機能を有しています。構造と機能の解析で、細胞と細胞の間の物質透過やバリアをタイトジャンクションがどのように制御しているかもわかりたいと思っています。いまはモデルの段階ですので、これらを確認したいと考えています。
藤吉好則氏
東京医科歯科大学 特別栄誉教授/京都大学 名誉教授/CeSPIA 取締役
1948年、岐阜県生まれ。71年名古屋大学理学部卒業、79年京都大学大学院理学研究科博士課程単位修得退学。79〜80年日本学術振興会奨励研究員。80年、京都大学化学研究所助手。1987年蛋白工学研究所主任研究員、88年同主席研究員。94年松下電器・国際研究所リサーチディレクター。96年京都大学大学院理学研究科教授。2012年名古屋大学細胞生理学研究センター 教授・センター長、同大学院創薬科学研究科教授。13年京都大学名誉教授、名古屋大学細胞生理学研究センター特任教授、同大学院創薬科学研究科 特任教授。17年名古屋大学細胞生理学研究センター客員教授。19年東京医科歯科大学特別栄誉教授。17年から株式会社CeSPIA取締役を兼務。専門分野は生物物理学。クライオ電子顕微鏡の開発による膜タンパク質の構造研究で世界をリードし、構造生理学という新しい分野の創設にも貢献する。受賞は、慶應医学賞、島津賞、紫綬褒章、学士院賞、Christian B. Anfinsen Award、藤原賞ほか。日本学士院会員。
海外の開発者たちがノーベル化学賞を受賞
岸本 クライオ電子顕微鏡をめぐっては、2017年にノーベル賞化学賞の対象にもなりましね。海外の3人に賞が贈られました。
藤吉 そうです。2013年ごろ、結晶をつくらないでも構造解析ができる「単粒子解析」という技術の飛躍があり、それが2017年のノーベル賞に結びついたと考えています。受賞者のヨアヒム・フランクが、結晶をつくらず単粒子で立体構造を解析する「スパイダー」というプログラムを作っていました。おなじく受賞者のジャック・デュボシェは、先ほども話しましたように急速な冷凍による氷包理法を開発しました。もう一人のリチャード・ヘンダーソンはクライオ電子顕微鏡のパイオニアの1人です。このタイミングでの受賞はちょっと早いかなと思ったのですが、医学や薬学への貢献も期待されての授賞なのだと思います。
岸本 もはや結晶をつくらなくても、クライオ電子顕微鏡で構造解析ができるようになっているわけですか。
藤吉 そうです。結晶を作らなくても高い分解能の立体構造が解析できるようになったので、一気にクライオ電子顕微鏡を使った研究は広まりました。
岸本 たしかに、2013年ごろから関連する論文数が増えているようですね。結晶をつくらないでも解析できるようになったのは、どうしてなんですか。
藤吉 極論をしますと、カメラの性能が上がったということです。蛍光剤を使わずシリコン基板上の電子線量が計測できるようになり、解像度などの性能が大きく向上しました。速い画像記録ができるので、像のぶれを補正できるようになったのも大きいですね。加えて、電子線による損傷が少ないデータを任意に選択し、損傷を受けた後半のデータは捨てることも自在にできて、損傷の少ないデータだけで立体像を解析できるようになったのも重要な理由です。
岸本 カメラの性能を高めたのも、ノーベル賞を受賞した3人だったんですか。
藤吉 ガタンという企業と協力してデビッド・エーガードが大きな貢献をしました。受賞した3人の「次」はいろいろおられますが、彼も含まれるかもしれません……。
岸本 藤吉先生も早くからクライオ電子顕微鏡を扱っておられたんだから、受賞されてもよかったのに……。
藤吉 いえ、これは謙遜ではなく、受賞した3人に贈られたのがまったく正当だったと思っています。私は、単粒子解析でなく、結晶をつくるやり方で解析してきましたし、貢献の大きい研究者は他にもおられます。結晶では技術的にはむずかしくて、さほど普及しませんでした。ただ、リチャードは、ノーベル賞の受賞が決まったときの記者会見で、私の名前を挙げて日本の貢献があったということを配慮して言ってくださいました。ありがたいことです。
岸本 それと、2003年でしたか。チャネルの選択性の機構解明ということでもノーベル化学賞が海外の2人に贈られていて。こちらも藤吉先生が受賞されてもよかったのじゃないかと……。
藤吉 いいえ。やはり彼らが貰うべきでした。ただ、速い水透過と高い水選択性の機構をアクアポリン-1で提案したのは私だったので、賞をもらうべきじゃないかと言ってくださる方はいますけれども。
岸本 2回も先生は受賞のチャンスがおありだったわけで。
藤吉 実際の受賞と違い、かするような例は多いし、私に焦点を当てすぎです(笑)。
岸本 まあ、今日は藤吉先生の対談ですから、先生に焦点が当たるのも無理ないことでしてね(笑)。
藤吉 冷や汗が出ます(笑)。
「第8世代」で細胞内の構造解析へ
岸本 技術が進歩して、扱いやすくなって、いまクライオ電子顕微鏡に対する研究者たちの関心も高まっているのではないですか。
藤吉 はい。実際、クライオ電子顕微鏡を使う研究者は世界でも日本でもとても増えています。これまでX線結晶解析を中心に研究されていた方のなかにも、クライオ電子顕微鏡を始めたという人は多いのです。
岸本 直近では、どのような研究が目立っていますか。
藤吉 やはり新型コロナウイルス(SARS-CoV-2:Severe Acute Respiratory Syndrome CoronaVirus 2)関連の研究がさかんです。ウイルスのスパイクとよばれる突起の構造解析などがおこなわれています。こうした成果により有効な治療薬も出てくるものと思います。
岸本 ウイルスの構造を解析して、その構造からどういう化合物が治療薬に向いているか、設計するわけですか。
藤吉 おっしゃるとおりですが、この場合には大きめの分子が必要でしょう。マスメディアなどには出ないところから、真に役立つ薬が突然出てくるかもしれませんね。
岸本 藤吉先生も最近、歩みを進めて、新たなクライオ電子顕微鏡をつくられたと聞きました。
藤吉 はい。2020年に「第8世代」とよんでいるクライオ電子顕微鏡を開発することができました。
岸本 なんでも、一つの視野を傾斜させて立体構造を得ることができるみたいですね。
藤吉 はい。「電子線トモグラフィ」という手法です。まず薄い試料をつくり、それを様々な角度に傾斜させて、立体的な情報を得ていくのです。
岸本 これまで、傾斜させて像を得るのはむずかしかったわけですか。
藤吉 はい。いまも、むずかしいですね。試料を傾斜させて像を撮影する場合には様々な問題があり、3Å(0.3nm)程度という高分解能で立体構造を解析するのは容易ではありません。しかし、極低温にまで冷却して、多くの像を撮影できる装置であれば、これが実現できる可能性があります。今回の「第8世代」で、このような解析ができるようになることを期待しております。
岸本 「第8世代」を使って、先生はどんな研究をされようとしているのですか。ここまで技術が進んだら、もう、あとはなにをすればいいかって感じですか。
藤吉 いえいえ、まだすべきことはいっぱいあります。残されている問題のひとつは、細胞のなかでの構造や相互作用を見ることです。2013年ごろに単粒子解析の技術が大きく前進したという話をしましたが、単粒子解析の弱点は、細胞のなかから調べたいものを取り出さなければならないところです。これだと、細胞のなかでの複雑な相互作用の様子などを捉えることができません。その点、私たちが第8世代で実施したいと考えている電子線トモグラフィを使う手法であれば、細胞のなかにある状態での立体構造をそのまま解析することができます。
岸本 細胞のなかを見ようとすると、細胞の厚さが妨げになりそうですが、どうやって細胞のなかを……。
藤吉 すでにバウマイスターらがやっていますが、集束イオンビームという手法と光学顕微鏡を合わせて使って、観たい細胞部分を薄く切り出します。すなわち、ねらったところを光学顕微鏡で観察しながら切り出します。それを電子顕微鏡に入れて様々な傾きの像を撮影して、立体構造を解析します。「第8世代」は、これをやるための装置でもあります。今後の研究の主流はそちらに移っていくかもしれないと思います。
岸本 「第8世代」は、いま何台ぐらいあるのですか。
藤吉 いまのところ1台です。東京・昭島市の日本電子本社に置いています。2021年の4月からは、府中市の東京農工大学に置いてもらえる予定です。
岸本 先生がおられる東京医科歯科大学には……。
藤吉 大学は御茶ノ水にあるのですが、すぐ近くを地下鉄が走っていて振動や磁場変動が激しいので電顕設置には適していません。けれども、研究室から遠隔操作して、共用するシステムは開発できています。
岸本 最近はなんでもオンラインですが、顕微鏡の操作もですか。
藤吉 そうです。クライオ電子顕微鏡は1台5〜6億円するので、研究者が自分で所有するのはむずかしいと思います。ですので、いろんな研究者が自由にアクセスし、操作するようなものであるべきと考えました。たとえば、日本電子と大阪大学を光回線でつないで、試料を送ってくだされば、阪大から岸本先生に操作していただくこともできます。現状では、顕微鏡にオペーレータが付いている必要がありますが、そのうちロボット化して、試料交換なども自動にできて、ほとんどすべてを遠隔操作できるようになっていくと思います。
岸本 技術の面でも、研究の面でも、先生がリードされてこられた分野が大きく発展していることがよくわかりました。今日はありがとうございました。
EYES
タンパク質の精緻な立体構造を解析 進歩目覚ましい クライオ電子顕微鏡
水分子などの選択的透過機構や
細胞同士の結合部位の分子機構を解明
光のかわりに電子を使い、光学レンズのかわりに電子レンズを使って、対象物の拡大像を得る装置は「電子顕微鏡」として知られます。光学顕微鏡よりもはるかに高倍率であることなどから、1950年代より世界的に普及し、いまも多くの分野で利用されています。
電子顕微鏡のなかでも、電子線が試料を透過するタイプのものは「透過型電子顕微鏡」とよばれます。ほかに試料表面を網羅的にスキャンするタイプの「走査型電子顕微鏡」などもありますが、もっとも一般的なタイプが透過型です。
透過型電子顕微鏡における課題は、タンパク質などの試料の構造を解析しようとすると、試料が著しく劣化してしまうことです。電子顕微鏡の中は真空なので試料の水が蒸発して乾燥するために変性してしまいます。また、電子線に照射されることで損傷を受けてしまいます。
これらの課題に対する解決が1980年代に試みられます。まず、試料を急速凍結させて非晶質の氷に包埋することで試料の乾燥を防ぐ方法が、スイスのジャック・デュボシェにより開発されました。一方、電子線照射による損傷を防ぐ方法を追究したのが、対談に登場する藤吉好則氏です。藤吉氏は、タンパク質を20K(−253.15℃)以下に冷却すると、室温の10分の1程度に電子線損傷を軽減できることなどを解明しました。こうした成果をもとに1986年、日本電子と「クライオ電子顕微鏡」の第1号機を開発しました。この第1号機は、世界に先駆けて販売されています。「クライオ(cryo-)」は「低温の」を意味する接頭辞です。
藤吉氏はクライオ電子顕微鏡を、生体膜に内在している膜タンパク質などの構造を解析するための手段として開発しました。そして、クライオ電子顕微鏡の性能を向上させつつ、また、X線回折などのほかの構造解析手法をも利用して、膜タンパク質の立体構造をつぎつぎと解明していきました。
「水チャネル」または「アクアポリン」とよばれる、水を透過させる細胞膜に内在するチャネルでは、水を速く透過しながら、いかなるイオンもプロトンをも透過させない分子機構を説明するモデルを打ち立てました。
また、細胞間をつなぐチャネルでイオンや水溶性物質を透過させる「ギャップ結合チャネル」を構成するタンパク質群であるコネキシンやイネキシンの構造解析などをおこないました。
さらに、細胞間をシールする構造体である「タイトジャンクション」については、クローディンとよばれる膜タンパク質のファミリーを複数種類にわたり解析し、タイトジャンクションの構造モデルを提案して、イオンを選択的に透過させる機構や、タイトジャンクションで構成される血液脳関門などのバリア機能の理解を進めました。
こうした研究成果は、生命の精緻なしくみを明らかにすることのほか、タンパク質の分子構造を理解し、その構造に有効に作用する化合物を選定したり合成したりする道が開けるため、創薬などの応用にもつながります。また、タンパク質などの生体高分子の機能を、分子構造から理解しようとする新分野「構造生理学」の創設にもつながりました。
藤吉氏が自身で開発したクライオ電子顕微鏡の改良や、海外の開発者との協働・競争により、クライオ電子顕微鏡の性能や使いやすさも格段に向上しました。分解能については、1990年代には3Å(0.3nm)レベルでしたが、2000年代以降は2Åを切る分解能での構造解析が可能となっています。また解析手法についても、試料の結晶化を不要とする単粒子解析法が開発され、発展してきています。それゆえ、生命科学や医学・医療などの分野において、クライオ電子顕微鏡を使う研究者は急激に増えています。