LF対談
「ゆらぎ」の原理を利用して省エネルギーをはかろうと考えています No.93(2021.6)
大阪大学大学院生命機能研究科/情報科学研究科 特任教授
情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター長
NECブレインインスパイアドコンピューティング協同研究所長
柳田敏雄 氏
公益財団法人 千里ライフサイエンス振興財団
岸本忠三 理事長
筋収縮の「首振り説」を否定
岸本 柳田敏雄先生は、2020年に日本学士院会員になられましたね。おめでとうございます。
柳田 ありがとうございます。とても光栄なことです。
岸本 僕が柳田先生のことを初めて知ったのは、箕面市船場東にあった新技術事業団(現・科学技術振興機構)で研究をされていた1990年代半ばでした。当時、僕は大阪大学の医学部長でして、生理学教室のポストに柳田先生を招いたら、もともと先生が所属されていた基礎工学部の人たちから怒られましてね(笑)。工学と生命科学と、両方の分野で先生は活躍・貢献されてこられたわけですね。
柳田 私は基礎工の理念である異分野融合の象徴でしたから(笑)。私は基礎工学部電気工学科卒業なんです。当時は、トランジスタやICなどが人気で、いわばトレンドな分野にいたわけですが、すでに基礎的なことはかなり解明され、応用的な研究が中心という雰囲気でした。「このまま研究していてもおもろないかもなぁ」と感じ、それで生物系の分野に移ったのです。電気工学科教授で太陽電池研究の大家だった濱川圭弘先生からは、「自ら落ちこぼれるあほがいるか!」と、大目玉も食らいましたね(笑)。
岸本 それで柳田先生は、生物物理学の大澤文夫先生(阪大、名大名誉教授)の研究室へ移られたんですか。
柳田 はい。基礎工学研究科にできて間もない生物工学系専攻に大澤先生が名大との併任で週2回ほどこられていまして。当時はまだ先輩も助手・助教授などの指導教員もいないし、測定装置らしきものも全くありませんでした。生物のことを知らない自分が一人でできることは筋肉を測ることぐらいだったので、筋肉の研究をすることにしました。研究室には装置がなかったので、実験は当時の中之島にあった医学部第一生理学教室で行いました。25年後に教授として戻ってくるとは想像もしませんでした。
大澤研究室に入るとき、先生の教え子の博士号取得者20人以上が職に就いていませんでした。大澤先生から「柳田くん、就職の世話はできないけれどいいのかい。電気工学みたいな華々しいところから、どうしてこんな地味なところにきたのかね」と言われました(笑)。
岸本 それで柳田先生は、大澤先生のところで、筋肉分子の「首振り説」を否定する著名な研究成果をあげたわけですか。
柳田 はい。当時、A.F.ハクスレーとH.E.ハクスレーが筋収縮のメカニズムとして、「首振り説」を提案していました。この説を否定したことになります。
岸本 「首振り説」は、アクチン分子とともに筋繊維のタンパク質をなすミオシン分子が、アデノシン三リン酸(ATP)のエネルギーを使って、首振りするように動くことで筋収縮が起きるというものと理解しています。説としては明快なものですね。
柳田 そうなんです。非常にわかりやすいこともあり、教科書にも紹介されていました。また、当時はタンパク質の構造変化と機能を明確に示した点でも重要な説でした。
けれども「首振り説」は、「生物には未知の原理がある」と信じ人生を賭けて生物分野に移ったので、人工機械とおなじでは、私としては絶望的だったんですね。「首振り説を否定してやろう」と思って、研究に取り組んだのです。
岸本 それで、ミオシンが実際はどう振る舞っているのかをお調べになった……。
柳田 ええ。光学技術を得意としていたので、光学顕微鏡を改良するなどしてミオシンの動きを測ってみました。すると、ミオシンは首振りなんてしていなかったのです。『J. Molecular Biology』に発表しました。1981年のことです。
岸本 柳田先生に味方してくれる研究者はおったのですか。
柳田 はい。ミネソタ大学のデイビッド・トーマスからも、おなじ結果になったという報告がありました。これで世界は大騒ぎになりました。
岸本 この重要な業績を早い時期に出されたわけですね。けれども、柳田先生の役職はその後も長らく「教授」や「助教授」などでなく、「技官」でしたね。
柳田 ええ。首振り説の否定が認められて以降、『Nature』に論文を発表したり、国際会議に招待されて特別講演をしたりしましたが、1987年までの13年間、技官のままでした。海外の研究者たちからも、「なんでヤナギダは教授にならないんだ。日本特有の文化でもあるのか」と話題にもなっていました(笑)。
岸本 ポストが埋まっていたんですか。
柳田 そうなんです。オーバードクター残酷物語の時代でした。
1分子イメージングで「ゆらぎ」を観察
岸本 柳田先生のご研究により、「ミオシンは首振りをしていない」ということになりました。すると次は「では、筋肉はどのように収縮するのか」という疑問が生じてきますね。
柳田 そのとおりです。大きな構造変化ならターゲットを絞れますが、そうではなさそうなので、分子1個レベルでの動きの詳細な観察をする技術を開発していったのです。
岸本 1分子イメージングはいまでは有名な解析技術となっていますが、柳田先生は当時どんな課題に取り組んだのですか。
柳田「水溶液中で1分子を観察する」というのが大きな課題でした。誰も成功していませんでした。それで1992年、新技術事業団のERATOで研究プロジェクトを立ち上げ、参加してくれた多くの若い優秀な研究者と、水溶液中の1分子をイメージングする技術を実現することができました。これ以降、生物分野の1分子イメージング研究は大きく発展しました。
岸本 技術的なポイントはどういったところだったのですか。
柳田 分子は小さすぎて水中では原理的に観ることができません。そこで、蛍光分子をミオシンに付けて、真っ暗闇で光らせて、そのごく微弱蛍光を超高感度カメラでとらえました。しかし、通常の蛍光顕微鏡だと背景が明るくなりすぎて、1分子蛍光を観察することができません。明るい昼に星を観測できないのとおなじことです。光が全反射するときに生じるエバネッセント光という特殊な光を使って蛍光色素とそのごく近傍だけを照射する光学系をつくりました。そして、背景光を従来の蛍光顕微鏡の2000分の1まで落とすことに成功しました。こうして、真っ暗闇の水溶液中で光る1分子を世界ではじめて観察できたのです。
岸本 それで柳田先生は、「首振り説」に代わる筋収縮の新たなモデルを打ち立てたわけですね。それは、ミオシン分子は物理学のブラウン運動、すなわち「熱ゆらぎ」を利用している、というものだと聞きます。
柳田 はい。ミオシン分子を詳細に観察していると、ATPからエネルギーがあたえられなくてもミオシン分子は小さいので水中でふらふらとアクチンフィラメントに沿ってブラウン運動で前後にゆらいでいます。たまたま前方向にふらふらと向かうと、そこにいる相手のアクチンの分子とぎゅっと結合します。そうすると、ミオシン分子のアクチンと結合する部分(頭部)とミオシンフィラメントをつなぐバネが伸ばされ、そのバネが短縮する力でアクチンフィラメントが引き込まれる。これが、筋収縮のしくみの本質だったのです。
岸本 筋収縮という動きがあるのに、エネルギーは使われないのですか。
柳田 「ミオシン分子が動くためにエネルギーが使われる」ということではないということです。ミオシン分子のブラウン運動は小さなものですが、集団になると筋収縮を起こすのに十分なパワーになるのです。
岸本 別のことにエネルギーが使われるのですか。
柳田 そうです。ミオシン分子のブラウン運動は前後にでたらめにゆらいでいます。そのままでは方向性のある運動は生まれません。エネルギーは、ミオシン分子がブラウン運動の方向を判断し前方向の運動を選択するために使われるのです。前後の判断はミオシン分子が持っているひずみセンサーで行われています。
岸本 なにかわかったような、わからないような……(笑)。
柳田 そうなんです。人工機械とは根本的に異なるしくみなので、特にライフ系の研究者にはわかりづらい。この主張を認めてもらうのに長年苦労しました。『Nature』に、「Swing against the tide」と題して3ページの記事が出たりしました。
熱力学的にいうと、「前か後かを判断する」という情報処理(エントロピー減少)にエネルギーが使われている、という説明になります。報酬をもらって働くマックスウエルデーモンですかねぇ。
自動車は動かすのにエネルギーを使い、またさらに運転にもエネルギーを使います。一方、ミオシン分子は動きはエネルギーの要らないブラウン運動で行い、運転(前後の判断)にエネルギーを使うということです。
「タンパク質は情報機械である」というのが、私の「ゆらぎ」モデルの要点です。そしてゆらぎを使うしくみは、筋肉の分子にかぎらず、細胞の小胞輸送、イオンポンプ、細胞シグナルの受容と伝達、遺伝情報伝達に関わる分子でも働いていることが最近報告されるようになりました。生物分子共通の基本原理だと思います。
岸本 分子が「ゆらぎ」を利用するということですが、分子にとってなにかよいことがあるわけですか。
柳田 ゆらぎを使うということは、分子がキョロキョロしながらいろいろなところに立ち寄りながらふらふら進むということです。一見ネガティブな感じですが、分子が周りの状況や環境の情報を得てそれに合わせて働くともいえるのです。しかも、熱ゆらぎを利用するのでほとんどエネルギーを使いません。一見大したことではないように見えますが、コンピュータはこういうのが一番苦手なんです。厳密に計算しますから、多くのファクターを含む状況や環境に合わせて働くように制御するには膨大な組み合わせ計算が必要になります。
ミオシン分子の場合は、筋肉の中でブラウン運動の前後を判断するだけでなく、他の多くのミオシン分子の様子を見ながらそれに合わせて調和をとって協同で働いているのです。実際、このゆらぎのしくみを取り入れて、外部負荷の変動にも対応し、柔軟に効率よく働く筋収縮をうまく説明できました。驚かれるかもしれませんが、筋収縮の柔軟な動的特性を統合的に説明したのは、ゆらぎを使ったこの研究が初めてです。首振り説はミオシン分子がアクチンを引き寄せるという動きを説明していただけなんです。筋肉はどのように働くかという何十年来の問題がやっと解けたのです。
柳田敏雄氏
大阪大学大学院生命機能研究科/情報科学研究科 特任教授
情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター長
NECブレインインスパイアドコンピューティング協同研究所長
1946年兵庫県生まれ。1969年大阪大学基礎工学部電気工学科卒業。71年同大学院修士課程修了。同年(株)村田製作所入社。74年大阪大学大学院基礎工学部生物工学科技官。87年同助教授、88年同教授。92~97年科学技術振興事業団創造科学技術推進事業(ERATO)「柳田生体運動子プロジェクト」総括責任者。96年大阪大学大学院医学系研究科第一生理学教授、2002年大阪大学大学院生命機能研究科研究科長、07年免疫学フロンティア研究副拠点長、10年大阪大学大学院生命機能研究科特任教授、11年理化学研究所生命システム研究センター長、情報通信研究機構 脳情報通信融合研究同年センター長。専門は、生物物理学、とくに運動蛋白質の1分子計測による分子生理学・生物ゆらぎに関する研究。生物学にゆらぎの概念を導入した第一人者である。受賞は、大阪科学賞、塚原仲晃賞、日本学士院賞・恩賜賞、朝日賞、The US Genomic Award、文化功労者ほか。日本学士院会員。
「ゆらぎ」の原理からコンピュータの省エネルギー化を
岸本 柳田先生は、いまご説明されたような生体内での「ゆらぎ」の現象を、コンピュータの消費電力の省エネルギー化などにも応用しようとしていると聞きます。
柳田 そうです。何か新しいアルゴリズムを探すために電気から生命分野に移ったので、ゆらぎを新しく工学展開しようと思ったのです。コンピュータは、システムを制御するとき、その構成要素一つ一つを厳密に制御します。しかし、システムが大規模複雑化すると、構成要素が増え、それらの組み合わせの数が指数関数的に増えます。それに従って、計算量が膨大に増え、コンピュータの消費電力も膨大になるのです。一方、ゆらぎのしくみで働いている分子で構成される細胞や人の脳は、非常に複雑なシステムですが省エネです。そこで、分子のゆらぎを表すモデルを一般化し、複雑な人工システムを省エネで制御するコンピュータアルゴリズムに応用することを考えたのです。
岸本 実際にモデル化できたのですか。
柳田 はい。阪大の情報科学研究科の村田正幸教授や基礎工学部の石黒浩教授たちとプロジェクトを立ち上げ、モデル化しました。
岸本 実際どのようなところで、省エネルギー化を実現しようとしているのですか。
柳田 村田教授が専門とされているインターネットのルーティング制御がその一つです。インターネット網は、世界中に複雑にはりめぐらされています。これを「ゆらぎ」の原理で省エネに制御しようとしています。
岸本 けれども、人工機械がヒトのしくみを真似すると、正確性が失われそうな気もします。
柳田 おっしゃるとおりです。ただ一方で、正確性を厳密に究めようとすればするほど、エネルギーは必要になってきます。そこで、「100%でなく、98%ぐらいでも十分に使いものになるなら、生物のゆらぎの原理を利用して省エネルギーをはかろう」と考えているわけです。インターネットのルーティングも98%の精度があれば十分です。ゆらぎのモデルを使ってシミュレーションすると、電力使用量は半分どころでなく、3000分の1ぐらいにまで落とせることがわかりました。インターネットのルーティング制御はICTの消費電力の大きな部分を占めているので、重要な成果だと思っています。
岸本 なるほど。「100%きっちりせい」でなく「まあまあでええやろ」というわけですね。私ども大阪人の気質と似ている気もします(笑)。
柳田 ワインなんかでも、味に大差があるわけではないのに、1本10万円するものもあれば1000円ぐらいのものもあって、ピンからキリまでですよね。
岸本 たしかに、味のちがいはあまりわかりません(笑)。
柳田 なので、“まあまあ”で良しとすればいいんです。そうすれば、桁違いに安あがりになります。しかし、このまあまあが白黒をはっきりさせるコンピュータには最も難しいことなんです。“まあまあ、ほどほどに”は生物の省エネ戦略だと思います。
「脳型の人工知能」の研究開発も
岸本 柳田先生は現在、脳情報通信融合研究センター(CiNet)でも研究センター長をつとめておられます。こちらの研究では、どんなことがわかってきましたか。
柳田 脳は、一生懸命何かを考えても、脳の消費エネルギーは1ワットしか増えないことがわかりました。一方、人工知能はというと、たとえば2015年囲碁で世界チャンピオンに勝利した「アルファ碁」は、プレイ中に20万ワットというエネルギー消費しました。
ヒトの脳が使うエネルギーは、人工知能より桁違いにすくないのです。
岸本 そうすると、人工知能の利用も含め、世界ではデジタル化が進んでいるけれど、いまの形でのデジタル化はしないほうがよろしいということですかね。
柳田 デジタル化は必要だと思いますが、いまのやり方でいくと情報量が増え続け、10年後には現在の総発電力量の1.5倍をITがつかうと予測されています。あまり話題になりませんが、とても深刻な問題です。そこで、CiNetでは生物の桁違いの省エネアルゴリズムに学んで、人や環境にやさしい次世代のITを開発しようとしています。一つは、お話ししたインターネットルーティングのゆらぎ制御です。
人工知能も「ゆらぎ」の原理をベースにしたアルゴリズムを入れて、省エネすることをねらっています。いまの人工知能は、事前に膨大なデータで学習させる必要があり、大きな問題となっています。脳は事前に学習しなくてもひらめくことができます。ひらめきもゆらぎが使われていることを発見しました。このしくみをモデル化し、人間の脳のように少ないデータの学習で働く省エネ人工知能の開発を新たなプロジェクトで取り組んでいるところです。
岸本 機械とかハードウェアとかのつくり替えも必要になるのですか。
柳田 いいえ、必要なのはソフトウェアの開発です。将来話題の量子コンピュータができれば、さらに省エネは進むと思います。量子コンピュータはゆらぎと相性がよいので、ゆらぎをベースにした脳型コンピュータが開発されるかもしれません。
岸本 機械は「これはよい。これはだめ」と白黒つけるけれど、人間の判断には「まあええ。ちょっとあかん」といったところも大いにありますね。そのくらいがよろしいと感じることもあります。
柳田 いまのコンピュータは、人間が親しみをもてない杓子定規であり、さらには大量のエネルギーを消費しています。「ゆらぎ」の原理で「まあまあほどほどに」を基本として、私たちとの親和性が高く、環境にもやさしい省エネ技術を開発したいとおもいます。そして、COVID-19後に期待されるネット社会に展開したいと考えています。
岸本わかりました。今日はどうもありがとうございました。
EYES
生体分子の本質的メカニズムとしての 「ゆらぎ」を解明
インターネットやAIなど人工技術への応用の研究も
ゆれることを「ゆらぎ」といいます。より科学的には、ある量が、平均値は一定であるものの、瞬間的にその平均値ちかくで変動している現象のことを「ゆらぎ」といいます。たとえば、高校教科書にも出てくる、熱運動などにより引き起こされる物体の不規則運動「ブラウン運動」は、「ゆらぎ」そのものといえます。
ヒトのなどの生体活動においても、この「ゆらぎ」が使われています。しかも、筋収縮などの生命にとって重要な各活動で、「ゆらぎ」が生体分子によって有効利用されていることが明らかになっているのです。生体における「ゆらぎ」の重要性にいち早く気づき、しくみの解明や応用の研究を進めてきたのが、対談記事に登場する柳田敏雄氏です。柳田氏は、筋原繊維を構成するアクチン分子とミオシン分子が相対的にすべり込むことで行われる「筋収縮」に着目し、研究をしていました。1970年代中盤、筋収縮をめぐる定説となっていたのが、ミオシン分子がアデノシン三リン酸(ATP:Adenosine TriPhosphate)のエネルギーで、首を振るように運動をし、これにより筋収縮が生じるとする「首振り説」でした。しかし、人工機械のアナロジーで説明されるこの「首振り説」に疑問を抱いていた柳田氏は、光学顕微鏡などで筋収縮の分子機構を観察し、ついにミオシン分子の「首振り」は起きていないことを見出しました。
柳田氏はさらに詳細な解明をすべく、個別の生体分子を観察する1分子イメージングの技術を開発し、ミオシン1分子の運動などを測定しました。その結果、ミオシン分子はアクチン繊維上をブラウン運動によって揺れながら前進していることを見出したのです。つまり、ミオシン分子は、人工機械とは異なる生体特有の「ゆらぎ」を利用した運動によって、筋収縮を引き起こしていたのです。この「ゆらぎ」を利用した分子運動しくみは、人工機械的に制御するよりもはるかにエネルギーを使わないものであり、また柔軟なものであることも柳田氏は見出しました。
ミオシン分子の「ゆらぎ」モデルが確立されて以降、柳田氏を含むさまざまな研究者が、生体内のほかの場所でも分子が「ゆらぎ」を有効利用していることを明らかにしています。筋収縮のほか、イオンポンプ、遺伝子発現、細胞内情報伝達といった各現象で「ゆらぎ」のしくみが利用されていることが確認されているのです。
「ゆらぎ」のモデルを確立したことで、柳田氏はその原理を、情報通信技術分野に応用するための研究にも取り組みだしました。エネルギー問題が深刻化するインターネット網を「ゆらぎ」の利用で制御すれば、機能は保ちつつも桁違いの省エネルギー化をはかれることをシミュレーションで示しています。
柳田氏はまた、脳の研究をおこない、その成果を人工知能などの技術に応用する取り組みもおこなっています。脳はコンピュータをはるかにしのぐ省エネルギー性をもって思考などの活動をしています。ここでも生体は「ゆらぎ」を利用し、柔軟な視覚情報処理をおこなったり、ノイズを遮断することなく複雑なしくみを巧みに制御していることなどを解明しつつあります。
こうしてヒトの脳のしくみを学び、高い汎用性、低エネルギー性、低コスト性を実現する次世代人工知能の研究開発を、民間企業などと共同でおこなっています。