LF対談

「使える」「きれい」「おもしろい」のトライアングル No.102(2024.6)

国立研究開発法人 理化学研究所
脳神経科学研究センター 細胞機能探索技術研究チーム/
光量子工学研究センター 生命光学技術研究チーム チームリーダー
宮脇敦史 氏

公益財団法人 千里ライフサイエンス振興財団
審良静男 理事長

大学図書館で
FRETとの邂逅

審良  宮脇敦史先生は以前より、オリジナリティのある素晴らしい仕事をされてこられました。対談を楽しみにしていました。

宮脇 どうぞよろしくお願いします。

審良 宮脇先生は慶應義塾大学医学部に入学されました。医学の道へのきっかけはいかがでしたか。

宮脇 工学的なことに興味があったのですが、自然科学の要素と文学的な要素とを折衷する医学に惹かれたのだと思います。

審良 医者になるというより、医学研究者になるという思いで進まれたわけですね。宮脇先生の書かれたエッセイを見ると、学生時代、おなじく医学部におられた岡野栄之先生や、当時その研究室を率いていた御子柴克彦先生はじめ、じつにさまざまな方にアプローチされていたのですね。

宮脇 自分自身の興味に従うまま。いまとちがって大らかな時代で、授業の出欠もとられず、自分のやりたいことに時間をたっぷり使えました。

審良 そのころはどんなことに興味を……。

宮脇 遺伝子の転写です。真核生物でなく、原核生物の転写です。試験管での再現が簡単なので。大腸菌の転写の開始因子と制御因子が複合体をつくっているのを証明しようとし、その手法を探していました。たまたま蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のことを知り、衝撃を受けたのです。

審良 図書館で文献に出合ったと聞きます。

宮脇 そうです。大学図書館で、製本されて本棚に並べられている論文をすべてひっくり返して読んでいるなか、ルーベルト・ストライヤー著の「分光学的定規としてのFRET」という総説のタイトルが目に飛び込んできて、「これはすごい!」と。転写の開始因子と制御因子が空間的に近ことを証明しようとしていたので、「FRETを使えば距離を測れる」と考えたのです。
後で気づいたのですが、授業の副読本として『ストライヤー生化学』を使っていたのです。縁を感じます。

審良 その後、宮脇先生は大学院生として、大阪大学蛋白質研究所に進み、阪大に移られていた御子柴先生の研究室に参入されましたね。当時の研究テーマはどういうものでしたか。

宮脇 当時の御子柴先生が主に取り組んでおられたイノシトール三リン酸(IP3)受容体の構造・機能相関でした。IP3受容体はリガンドと結合するとカルシウムイオンチャネルとしてはたらくので、細胞内でどうカルシウムが動くかを研究しました。御子柴先生には、様々な実験を経験し、その上で心に温めたFRET技術の適用を考えるよう指南していただきました。

バスで熱意を伝えて叶えた留学
Cameleonを開発

審良 その後、宮脇先生は、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校のロジャー・ツェーン研究室に留学されます。留学時代以降、さまざまな蛍光タンパク質やプローブを開発されました。なんでも宮脇先生がツェーン先生に近寄っていかれ、熱烈なアピールで研究室入りをかなえたとか……。

宮脇 はい。博士課程が終わり、「そろそろ留学をしよう。留学するならFRETを使った研究をしよう」と思っていました。その点、ツェーン研究室は1991年に「単一細胞におけるサイクリックAMPの蛍光レシオイメージング」という論文を『ネイチャー』に発表し、FRETを生きた細胞に適用するイメージングを報告していましたし、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質を、さまざまな色に変える変異体を開発していました。「ぜひロジャー・ツェーンにアプローチを」と思っていた1994年の夏、ツェーン博士も私も参加する学会が米国ニューハンプシャーでありました。その帰路、参加者はボストンのローガン国際空港までバスで移動したのですが、彼がバスに乗りこむとき、私は背後にひゅっと入って付いていき、彼の座席のとなりを陣取ったのです。空港まで3時間半、思いの丈を伝え、懇談することができました。こうして自分を売りこむことで、翌年1995年の10月から、ツェーン研究室で研究できることになったのです。

審良 それはやりましたね。ツェーン研究室では、宮脇先生の代表的な成果の一つとなっている「Cameleon(カメレオン)」を開発なさいました。

宮脇 はい。カルモデュリンとM13というタンパク質の複合体に青緑色の蛍光タンパク質と黄色の蛍光タンパク質を付けておきます。カルシウムイオンがカルモデュリン部分に結合すると、複合体の構造変化が起こって青緑色の蛍光タンパク質から黄色の蛍光タンパク質へのFRETの量が増えるように仕組んだのです。つまり、カルシウムイオンの濃度を、蛍光の色で測れるようにしました。

審良 濃度に応じて色が変わる……。だから「カメレオン」なんですね。

世界初の蛍光色素・プローブを
次々と開発

審良 留学から帰国されて、宮脇先生は新たな蛍光タンパク質やプローブの開発を重ねてこられました。どんな必要性が生じてといった経緯にも興味あるのですが、Cameleonの後はなにに着手されましたか。

宮脇 まずオワンクラゲ蛍光タンパク質の高輝度改変体「Venus(ヴィーナス)」の開発。それから「Kaede(カエデ)」。これは紫光や紫外光の照射によって、蛍光が緑色から赤色に不可逆的に変化する蛍光タンパク質です。さきほどのCameleonは、下村脩先生発見のオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質の色変異体を組み合わせて開発したものですが、オワンクラゲ以外の動物に由来する蛍光タンパク質をハントしたいとの思いがありました。とくに日本の亜熱帯地域の生物多様性に興味をもっており、サンゴなどの刺胞動物に着目していたのです。2000年に、都内のペットショップで買ったヒユサンゴを材料に、Kaedeをつくることができました。

審良 そうでしたか。もう一つ、「Dronpa(ドロンパ)」というのも、光を照射すると色が変わるのでしたね。ただ、この場合は可逆的に変わる。

宮脇 そうです。Dronpaは、青色光の照射によって蛍光を消すことができ、紫光の照射によって蛍光を取り戻すことができます。つまり蛍光のオンとオフを何度も繰り返すことができます。KaedeにしてもDronpaにしても、バイオイメージングの新しい様式を提案したいという思いがありました。

審良 それと、僕がいちばん驚いたのが「Fucci(フーチ)」です。細胞が細胞周期のどの期にあるかが色でわかるという……。世界中の研究で、ものすごく使われていますでしょう。

宮脇 Fucciは世界標準になっていますね。道路の信号機は「進め」が緑で「止まれ」が赤です。分裂後の細胞が、S期に進み増殖期に突入する様子が緑色の蛍光で、一方、G1期にとどまる様子が赤の蛍光で観ることができます。そもそも私の研究室の開発はシーズ先行型が多いのですが、Fucciについては逆で、細胞周期の進行を可視化したいというニーズが先にありました。

審良 つぎに、「Keima(ケイマ)」というのは……。将棋の「桂馬」ですか。

宮脇 ええ。Keimaは、励起光の波長と蛍光の波長との差が大きいことを特徴とする蛍光タンパク質です。440nmという短波長で励起すると、620nmという長波長で蛍光が起こります。将棋の駒の桂馬みたいに「跳ぶ」のでKeimaと名づけました。Keimaは、細胞が細胞内のタンパク質を分解して再利用するオートファジーや、ミトコンドリアを分解するマイトファジーのイメージングに使われています。

審良 ニホンウナギから取った蛍光タンパク質で、「UnaG(ウナジー)」というのも、ネーミングを含め、おもしろいですね。

宮脇 一般的な蛍光タンパク質が自身で発色団を作るのとちがって、UnaGは生体内のビリルビンを「借りて」発色団として使う蛍光タンパク質です。蛍光をベースに生体試料中のビリルビン濃度を測定することができます。ビリルビンが血中に増え、血管外組織にたまるといわゆる黄疸の症状が現れます。とくに未熟児を対象に、新生児黄疸の診断用にUnaGが利用されています。
ずい分前に近くの鰻屋で立派なウナギをいただいて、ぶつ切りの断面を蛍光実体顕微鏡で観察したことがありました。燦然と緑色に光るのを見てびっくりしました。ウナギがビリルビンを大量に蓄えて蛍光を発する理由は謎です。いずれにしてもUnaG研究のおかげで、バイオイメージングツールの材料は身近にも在ることを学びました。

個体深部イメージングの
先駆的開発

審良 さらに宮脇先生は研究を進められて、動物個体のより深いところを解き明かすためのイメージング技術を構築されていきましたね。僕がすごいと思ったのは「Scale(スケール)」です。組織を透明化させて、深いところを見るという……。蛍光タンパク質とはまたべつの研究の筋ですか。

宮脇 べつのように見えますが、Scaleは蛍光タンパク質のシグナルを保持したまま組織固定組織を透明にするので関係はあります。古典的な透明化試薬はたいていが蛍光タンパク質を消光してしまう。Scale試薬の主成分は尿素です。ほとんどの蛍光タンパク質は高濃度の尿素に耐性です。マウスの脳の神経回路を遺伝学的に蛍光タンパク質で標識し、その3次元再構築を行うとして、透明にした脳標本の表面から深部に光学的切片を取るやり方の威力を証明することができました。機械的に切片を作製するやり方は膨大な時間がかかって出来上がりも完璧ではありません。

審良その後も、深部の細胞からの信号を検出を実現なさった。「Akaluc(アカルック)」というのもありますね。

宮脇 はい。Akalucは、ホタルの発光酵素を改変して開発したものです。2013年に開発された人工発光基質「AkaLumine(アカルミネ)」と合せて「AkaBLI(アカブライ)」システムと銘打っています。動物のとくに脳の深部における発光現象を、通常システムに比べて千倍ほどの感度で、検出することができます。脳以外でもたとえば肺の毛細血管にトラップされるわずか一個のがん細胞を検出することが可能です。蛍光と異なり、生物発光は励起光を必要としない分、深部の観察が有利となります。

宮脇敦史 氏

宮脇敦史 氏

国立研究開発法人 理化学研究所
脳神経科学研究センター 細胞機能探索技術研究チーム/
光量子工学研究センター 生命光学技術研究チーム チームリーダー

1961年、岐阜県生まれ。87年慶應義塾大学医学部を卒業。91年大阪大学医学部大学院医学研究科博士課程を修了。以後、日本学術振興会特別研究員、東京大学医科学研究所助手、カリフォルニア大学サンディエゴ校博士研究員。99年独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター先端技術開発グループ細胞機能探索技術開発チーム チームリーダー。2013年独立行政法人理化学研究所 光量子工学研究領域生命光学技術研究チーム チームリーダーを兼任。15年、理化学研究所の国立研究開発法人化を経て、現職。国立研究開発法人科学技術振興機構CREST「[細胞を遊ぶ]細胞操作」研究統括もつとめる。専門分野は生物物理、バイオイメージング。生物が生きたままでの観察を可能にするバイオイメージング技術の開発研究の牽引者。開発した技術が世界中の多くの研究者に利用されている。おもな受賞歴は、島津賞、紫綬褒章、上原賞、武田医学賞、慶應医学賞、日本学士院賞。

医学・医療分野での
貢献をめざして

審良 今後、宮脇先生はどのような方向に進んでいくおつもりですか。

宮脇「ウィッシュリスト」にはたくさんの項目がありますが、それらの実現に至るのはまだ遠い先といったところでしょうか。イメージとしては「使える」「きれい」「おもしろい」の3つを頂点に据えた三角形をどう広げていくかを意識しています。

審良 視野に入れている分野というのは……。

宮脇「回遊」という表現が似合うぐらい、いろいろな分野に手を出してきたので、今後の展望もふわふわと揺らいでいます。でも、医学・医療の進歩に貢献する技術の開発をめざそうとしています。たとえば、体外診断で蛍光や発光の技術を使えないかという思いはあります。

審良 そうですか。
僕はいつもライフサイエンスの研究者には、生命現象を解明しようとするタイプと、そのための技術を開発しようとするタイプがあると思っています。技術があればこそ研究は進むというもの。宮脇先生については、最先端の技術を開発しながら、それを使ってなにかやりたいことがあるのではないかといつも見ています。とくに、さっきもお話のあった神経の研究あたりじゃないかと……。

宮脇 もちろん脳神経はこれからも集中して研究していきたい分野です。今春まで「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」という10年の国家プロジェクトのリーダーをつとめてきました。今後も、認知症のメカニズムなどを解明していくという目標があります。
ほかにも、代謝やオートファジーなどにも興味をもっています。脳神経から始まりライフサイエンス全般に広く使えるバイオイメージングのツールをつくっていきたいと思います。

審良 僕たちも2007年に大阪大学免疫学フロンティア研究センター(iFReC)を設立したとき、免疫学(immunology)とイメージング技術(imaging)とインフォマティクス(informatics)といった異なる「i」を融合させることを念頭に置きました。
ただ、イメージング技術については、非観血的に体の外から免疫細胞の動的ダイナミズムをよりよく見ることができないかと挑んできたものの、そう多くの成果を上げられたわけではない。これからのバイオイメージング技術に期待してもよいでしょうか。

宮脇 ノビシロは大きいと思います。今日お話したのは、クジラに発信器をつけて泳ぎを追うバイオロギングとおなじように、細胞にプローブを導入して動態を見る技術の一端です。そうではなくて、生体がもともともっている内因性のシグナルを可視化するアプローチもあります。審良先生が研究されているToll様受容体も含めて、すべての生体分子が固有の周波数で振動しているはずで、それをうまく抽出して画像化する技術ができれば、と思いますね。

審良 なるほど。何も導入しないで外から動態を見られるのがいちばんありがたい気がします。

宮脇 いわゆる無染色のバイオイメージングですね。もちろん、染色の安全性を極めるアプローチもありです。いずれにせよ、ヒトへの適用が大いに期待されます。

「失敗」に科学のおもしろさがある
「無駄」に科学の発展がある

審良 宮脇先生はどのような研究のモットーをおもちでしょうか。

宮脇 「失敗を愛でる」というモットーがあります。予想と異なることを大事にします。常識に沿わない部分に科学のおもしろみはありますからね。
「あえて無駄なことをする」もモットーの一つですね。博士課程の時代に発生学の岡田節人先生から受けた教訓です。一見無駄と思えるもののなかに発展はある。無駄と思われることを積極的にやりなさいとよく言われました。

審良 いまの若い研究者たちの姿を見て、宮脇先生はどう思われますか。

宮脇 効率を最優先にしてスマートなやり方を尊ぶ風潮はあると思います。でも、泥臭いことも賢くどんどんやってほしい。
蛍光や発光の生き物が、「どういう気持ち」で光るのか。これはまったくわかっていません。総じて、人類は目前の自然もほとんど解っていない。決して奢らず自然と向きあっていくべきです。

審良 僕らの学生時代にくらべて、いまの学生たちは、論文をつくるにしてもいくつもの図版の完成度を高めなければならず、修了までフルで取り組んでやっと論文を完成できるかどうかです。そうしたなか彼ら・彼女らがモチベーションを保ちながら研究していくにはどうしたらいいでしょうか。

宮脇 モチベーションを育むのは、たしかに難しいと思います。極めて純粋に「自分はこれだ」と思える興味の対象を、若いうちに見つけられたらいいですね。

審良 いろいろなテーマに取り組むなかで、本当に興味をもてることに出合えるということはあるでしょうね。

宮脇 私自身を振り返ると、「考える」より「感じる」ことが意味深い場面がありました。学生時代、図書館で例のFRET論文を読み終って全身がくたくたになったのを覚えています。理屈抜きで「おもしろい」と感じる経験はたとえ小さくても大切にしてほしいです。

審良 今日はありがとうございました。

(対談日/2024年3月19日)

EYES

生命の未踏の領域を「光」で照らす
バイオイメージング技術を開発

蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)などの
物理現象を応用

「蛍光」と聞いて、多くの人は、蛍光ペンを使ったなどの経験から、どんなものか想像つくことでしょう。物質に光を当てたとき、その物質から発せられる別色の光が蛍光です。ちなみに、光を当てるのをやめてからもしばらく発しつづける場合に「燐光」とよぶことがあります。

光を吸収した物質は、エネルギーの低い基底状態からエネルギーの高い励起状態へと跳び上がります。励起状態から基底状態へ戻る際、励起エネルギーを使って物質は蛍光を放出することがあります。
蛍光現象では、吸収する光をさす励起光の波長は短く、いい換えればエネルギーは強く、他方、発する光をさす蛍光の波長は長い、いい換えればエネルギーは弱いという法則があります。蛍光物質は短い波長の光を吸収し、長い波長の光を放出するわけです。励起光と蛍光それぞれの波長は、蛍光物質の種類によって異なります。

生体内に蛍光物質である蛍光タンパク質をもち、蛍光を発する生物がいます。よく知られているのがオワンクラゲ。ノーベル化学賞受賞者の下村脩氏(1928-2018)により、青色の光を出すイクオリンという化学発光タンパク質と、緑色の光を出す緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescent Protein)から成るシステムの全容が解明されました。現在、数百種類の蛍光生物が報告されており、今後もその数は増えていきそうです。ちなみに「蛍光」という字からホタルがお尻から出す光も蛍光と思われがちですが、あの光は、蛍光タンパク質によるものでなく、発光酵素と発光基質の反応の所産です。

二つの蛍光分子が適当な向きでごく近くに存在するとき、一方の蛍光分子からもう一方の蛍光分子に励起エネルギーが移ることがあります。ドナーとよばれるエネルギー供与側の蛍光分子の蛍光の波長スペクトルと、アクセプターとよばれるエネルギー受容側の蛍光分子の吸収の波長スペクトルが重なっていれば、ドナーが光を発するために使うべき励起エネルギーがアクセプターの励起に使われる確率が生じます。この現象を「蛍光共鳴エネルギー移動」(FRET:Fluorescence Resonance Energy Transfer)と呼びます。たとえばオワンクラゲでも共鳴エネルギー移動が起きています。イクオリンの発光の波長スペクトルと、GFPの吸収の波長スペクトルが重なることから、「イクオリンの励起エネルギーをGFPが受けとってGFPが緑の光を出すのに使う」と説明されます。

FRETなど様々な蛍光関連の物理現象に惹かれ、それらを応用して、斬新なツールをつぎつぎと開発し、バイオイメージングの分野に多大な貢献をしてきたのが、3ページからの対談記事に登場する宮脇敦史氏です。もともと、バイオイメージングの分野では生体内の注目する部位を蛍光物質で標識して、その動きや変化を画像化する観察スタイルがあります。

宮脇氏は1995〜1997年、後年に下村氏らと「GFPの発見と応用」の業績でノーベル化学賞を受賞するロジャー・ツェーン氏(1952-2016)の研究室に留学。世界に先駆けて、FRETの原理を応用し、カルシウムイオン濃度の変化を蛍光色の変化として捉える技術、すなわちカルシウムイオンの濃度測定を可能にするカルシウム指示薬「Cameleon」を開発しました。

Cameleonにおいては、カルシウムイオンの濃度が高くなるにつれ、ドナーの青緑色蛍光タンパク質(CFP:Cyan Fluorescent Protein)からアクセプターの黄色蛍光タンパク質(YFP:Yellow fluorescent protein)へのFRETの量が増大するしくみをもたせています。見た目では、青緑色から黄色へと蛍光色が変わっていきます。青緑色であるほどカルシウムイオン濃度は低く、黄色であるほど高いというわけです。

宮脇氏は以降、生物の蛍光や発光現象を材料に、極めてユニークなバイオイメージング技術を開発してきました。それらの一端を対談記事でお読みいただけます。
近年も、宮脇研究室からは、Cameleonを使って、小脳感覚入力の分散型情報処理の全容解明や、細胞の微細構造の持続的高速観察を可能にする“色褪せない”蛍光タンパク質「Stay Gold」の開発など、多彩な成果が上がっています。
生命の謎めく切り口を「光」で照らす多彩な研究開発が進んでいるのです。

 

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