趣旨
デザイン・制作プラン
 近年の医学の進歩のおかげで、「不治の病」とされた多くの病気が治療可能となってきた。しかしながら現代においても、原因不明あるいは治療が困難で、慢性の経過を辿り、後遺症を残すおそれのある疾患は数多く存在する。この「難病」の原因を明らかにし治療法開発に結びつけていこうとする試みは、主として分子生物学、遺伝学などの技術革新に支えられて、大きな成果をあげようとしている。「難病への挑戦」シリーズでは、原因解明から治療法開発に繋がる独創的なブレークスルーを切り開いた研究者を招き、最先端研究についてお話ししていただく。異なるバックグラウンドを持つ研究者、大学院生、学生の積極的な参加を期待している。最先端研究に触れ、困難を乗り越えて新たな地平を切り開こうとする研究に魅力を感じてもらえたらと願う。

コーディネーター:山下俊英、菊池 章
【コーディネーター】 山下俊英(大阪大学大学院医学系研究科 分子神経科学)
菊池 章 (大阪大学大学院医学系研究科 分子病態生化学)



講演会のご案内
第3回
アルツハイマー病根本治療薬の開発の可能性を探る

講師:杉本 八郎
    京都大学大学院薬学研究科 最先端創薬研究センター 客員教授

日時:平成22年9月15日(水) 18:00〜20:00

場所:千里ライフサイエンスセンタービル
    (講演会)
5階 サイエンスホール   ← 会場が変更になりました。
    (懇親会)6階 603−604号室      

参加費:無料

(※お車でお越しの方は、懇親会でのアルコールはご遠慮下さい。)


アルツハイマー病根本治療薬の開発の可能性を探る

杉本 八郎
京都大学大学院薬学研究科 最先端創薬研究センター 客員教授


はじめに
 アルツハイマー病(AD)患者は世界全体が高齢化社会に移行しつつあることから今や世界的規模で問題になってきている。一昔まえは米国ではADはgo home diseaseと呼ばれていた。患者が病院に来て医師があなたはADですと診断しても治療する方法がなかったのだ。しかし今は少し事情が変わってきた。治療薬が登場したのだ。はじめに登場したのがタクリン、次にドネペジルさらにリバスチグミン、ガランタミンと続く。これらはコリン仮説に基づいて開発に成功した。さらにコリン仮説ではないものも現れたNMDA受容体拮抗作用によるメマンチンである。しかしこれらはいずれもADを根本から治す薬剤ではない。
1.コリン仮説
 1970年代にDavies,P.
3)らやPerry,E.K.4)はアルツハイマー病の患者はアセチルコリン作動性神経の障害と記憶が深く関わることを論文に報告した。ここからコリン仮説が生まれた。そのメカニズムは神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)を分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の働きを止めることによって,アルツハイマー病患者の脳内AChを増加させ記憶を改善するものである。コリン仮説ではタクリン、ドネペジル、リバスチグミンそしてガランタミンがあり、NMDA受容体拮抗薬としてメマンチンがあるが、世界で最も多く使われているものがドネペジルである。しかしいずれも対症薬でありADの進行を止めるものではない。それではADの根本治療薬の可能性はあるのだろうか。
2.根本治療薬の可能性
 いまADの原因物質と考えられているものにベータアミロイドの凝集塊である老人斑とタウタンパク質が異常にリン酸化されてできる神経原線維変化がある。AD患者の脳内にあるこれらの原因物質を除去もしくは生成されなくすることによってADの進行を止める可能性が見えてきた。
1)ベータアミロイド仮説
 ベータアミロイド(Aβ)は前駆体であるamyloid precursor protein (APP)からβ-secretase(BACE1と示すこともある)とγ-secretaseの2つの酵素によって切り出されてくる。 Aβのモノマーは神経毒性を示さず、そのオリゴマーが毒性を示すといわれている。創薬のアプローチにはこれらの酵素の働きを止めてしまえばAβは産生されないことになる。世界のAD治療薬の研究者たちはBACE1の阻害薬とγ-secretaseの阻害薬の研究が かなり進んでいていくつかの化合物は臨床の第2相もしくは第3相治験に入っている。
酵素阻害作用ではないがAβの凝集した結果にできるオリゴマーが毒性発現物質であるのなら凝集抑制薬の開発も治療薬の可能性がある。
 しかし最近いくつかの臨床治験の第2相または第3相治験の結果が公表された。そのひとつはγ-secretaseのmodulator であるR-flubiprofenがある。γ-secretase阻害薬はNotchタンパク質の働きも阻害してしまうために副作用が懸念されていた。そこで登場したのがNotchに影響しないγ-secretaseのmodulatorが注目された。第3相臨床治験の結果は期待されたものではなかったため、開発は中止された。また Aβの凝集抑制剤では3APS(3-aminopropansulfonic acid)の第3相臨床治験の結果が公表された。しかし結果は用量依存性が認められなかったことから開発は中止された。これらの臨床治験の公表と相前後してAβのワクチンの第2相臨床治験の結果が判明した。おそらくAβ仮説で世界が最も注目したのがAβのワクチンではないだろうか。1999年にエラン社がNature に発表したAβワクチンの効果は驚くべき作用を示した。この論文を読んだときにADの根本治療薬の成功は遠からずして実現されるのではないかと感じたものだった。しかし開発の当初から若干懸念されていた脊髄脳炎が第2相臨床治験の途中で発見された。エラン社は臨床治験を続行することを断念した。
2)タウ仮説(タウタンパク質凝集によりできる神経原線維変化)
 タウタンパク質は何らかの要因で異常にリン酸化されると微小管から脱落する。それが凝集した結果に生成されるのが神経原線維変化である。リン酸化されたタウの凝集塊が神経毒性を示すといわれている。そこから創薬のアプローチが見えてくる。ひとつはタウタンパク質のリン酸化を阻害する薬剤の開発、もうひとつはタウタンパク質がリン酸化されて生成され凝集するところを抑制するという方法である。創薬のアプローチとしてはベータアミロイド仮説に基づくものが先行したためかタウ仮説による創薬研究はあまり進んでいない。ひとつだけ臨床治験に入っているものがある、それはタウタンパク質の凝集を抑制する作用による治療を試みているメチレンブルーである。第2相臨床治験に入っている。
またタウタンパク質のリン酸化阻害作用による創薬は過去に試みられているが成功していない。私見によるとADの原因物質がAβの凝集塊とリン酸化されたタウの凝集塊であるという仮説に依拠して考えるとき、ADの根本治療薬の可能性はそのいずれの凝集塊をも減少または産生を抑制するものでなければいけないと考える次第である。
おわりに
 ベータアミロイド仮説に基づく薬剤はたくさんの化合物が臨床治験に入っている。21世紀の医学薬学の主要なテーマのひとつのAD根本治療薬の開発がある。ベータアミロイドかタウタンパクかどちらかまたはその両方が必要なコンセセプトなのか、現状からは予測することは難しい。しかしこの数年の後に結果が判明する。いま私たちはわくわくする時点にいることは間違いない。私自身はベータアミロイド仮説とタウタンパク質仮説のいずれにも作用示す化合物を得ている。この化合物の開発状況についてその一部を当日発表させていただく。


【講師略歴】
【学歴】
昭和36年 3月  東京都立化学工業高校 卒業
昭和44年 3月  中央大学理工学部 工業化学科 卒業

【職歴】
昭和36年 4月  エーザイ株式会社入社研究所(合成)研究員
平成12年 4月  同社 理事 創薬第一研究所 所長
平成15年 4月  京都大学大学院薬学研究科
        寄付講座「創薬神経科学講座」教授
平成17年 4月  中央大学理工学部 客員教授(兼任)
平成22年 4月  京都大学大学院薬学研究科
        最先端創薬研究センター 客員教授
平成22年 7月  理研 客員主幹研究員(兼任)
平成22年 7月  静岡大学工学部 客員研究員(兼任)



申し込みについて
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申し込み先: 「難病への挑戦」dsp@senri-life.or.jp

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